研究課題
難治性癌の代表である膵臓癌は、新生血管が少なく、間質組織の異常増生の結果、低酸素環境(O2 0.7%)にある。この低酸素微小環境に順応した細胞が膵癌の悪性形質の責任細胞だと考え、膵癌の生体内環境に近い低酸素環境(O2 1.0%)で膵癌オルガノイドを樹立した所、形態学的には充実性で、E-cadherin(±)、 Vimentin(++)、5-FUに耐性を示す高悪性度のクローンを得た。これは、同一膵癌患者からO2 20%環境下で樹立したクローンとは全く逆の性質であり、本来我々がターゲットとすべき膵癌の悪性形質の責任細胞を低酸素ニッチで選択的に得る事に成功した事を意味する。本研究では、複数の膵癌患者組織を高酸素ニッチと低酸素ニッチで3Dオルガノイド樹立したライブラリーを構築し、in vitro、in vivo研究における、網羅的な遺伝子、タンパク、細胞表面糖鎖発現の違いを把握し、低酸素環境に順応した膵癌の悪性形質の責任細胞の本質に迫ることを目的としている。研究開始後から、膵癌患者計12症例から低酸素、通常酸素下でオルガノイドをそれぞれ樹立し、計24種類のオルガノイド樹立に成功し、タンパク、RNAの抽出を終えている。さらにそれぞれのオルガノイドに対してゲムシタビンや5-FUを用いた薬剤感受性試験を行い、現在結果を解析中である。まだ計24種類のオルガノイドのうち、12種類のオルガノイドのみをRNA解析を行っているが、残りのサンプルに関しては今後解析する予定である。その結果から低酸素耐性を持つ膵癌細胞の分子メカニズム、ひいては早期発見、治療ターゲットとなる分子の同定を目指す。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、ヒト膵臓癌の3Dオルガノイド技術を用いて膵癌の真の悪性形質となる細胞の培養、解析を行うことである。そのために、ヒト膵癌3Dオルガノイドを低酸素、通常酸素下で樹立、培養し、低酸素下で得られたヒト膵癌3Dオルガノイドライブラリーを作成し、これを解析することで悪性形質を担う細胞特異的な遺伝子発現、糖鎖の解析を行う。低酸素、通常酸素の樹立、培養の症例数が集まれば、同一腫瘍内における悪性度に関わる因子、ならびに効果的な治療法の発見にとどまらず、今後のオルガノイド技術における革新的なプラットフォームとしてすべての研究につながる可能性を秘めている。その中で、我々はすでに低酸素、通常酸素いずれの環境下においてもオルガノイドを安定的に樹立できており、その解析にすすめており、技術的に安定している状況である。まだRNA解析を終えていない症例はあるが、今後すべての症例の解析が進めば、低酸素における膵癌の悪性形質の本質に迫ることができると考える。
今後はさらなる症例の蓄積とともに、まだ未解析のサンプルに対するRNA解析を施行する。得られた結果を統合し、低酸素下オルガノイド、通常酸素下オルガノイドのそれぞれに特異的な分子メカニズムの解明、低酸素が及ぼす影響の解析を行う。また昨今普及している空間トランスクリプトーム解析を併用することで、オルガノイドのoriginである細胞、組織の同定、低酸素状態における組織とオルガノイドとの整合性を評価する予定である。
次年度使用額が生じた理由としては、RNA解析費用がかさむため当該年度の予算では賄えず、次年度に繰り越して解析を行うためである。
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Frontiers in Cell and Developmental Biology
巻: 12 ページ: 1-10
10.3389/fcell.2024.1327772