研究課題/領域番号 |
23K19553
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
大島 健司 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (40817152)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 大腸がん / 転移 / 腫瘍代謝 / シグナル伝達経路 |
研究実績の概要 |
がんの転移はがん患者の大きな予後不良因子であるが、これまでがんの転移の阻止・根治に繋がるような転移メカニズムの発見はなされていない。複雑ながんの転移の過程において、がん細胞は原発巣とは代謝環境が全く異なる他臓器で転移巣を形成するために、代謝を改変しその環境に適応する必要がある。本研究では、大腸がんにおいて、転移を可能にするがん細胞の代謝改変のメカニズムを解明し、転移に寄与するがん細胞特異的な代謝を標的とした治療法を創出することを目的とする。本年度は、大腸癌において発現が増加しているグルタミントランスポーターであるSLC1A5が治療標的となるかをin vitroで検討した。大腸がんで機能獲得型変異が見られるKRAS, BRAF, PIK3CAそれぞれの変異陽性大腸がん細胞株のisogenic cell lineを用いて検討したところ、変異陽性細胞においてグルタミントランスポーターSLC1A5のタンパク質発現が上昇しており、さらに、PI3K/Akt経路またはMAPK経路の阻害薬はSLC1A5の発現を低下させる結果を得ている。これらはPI3K/Akt経路、MAPK経路がSLC1A5の発現を促進していることを示唆している。上記の結果からSLC1A5が大腸がんの治療標的になる可能性を検討した。近年開発されたSLC1A5の阻害剤は大腸がん細胞の増殖を抑制することを確認した。しかし、高濃度域においても増殖する細胞が認められた。これらSLC1A5阻害剤に抵抗を示す大腸がん細胞のシグナル伝達経路をwestern blotで調べたところ、Aktのリン酸化の亢進が認められた。そこで、SLC1A5の阻害剤とAkt阻害剤の併用の効果を検討したところ、SLC1A5阻害剤とAkt阻害剤は相乗効果を示すことを見出している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、大腸がんにおいて、転移を可能にするがん細胞の代謝改変のメカニズムを解明し、転移に寄与するがん細胞特異的な代謝を標的とした治療法を創出することを目的とする。この目的を達成するために本年度は、大腸癌において発現が増加しているグルタミントランスポーターであるSLC1A5が治療標的となるかをin vitroで検討した。大腸がんで機能獲得型変異が見られるKRAS, BRAF, PIK3CAそれぞれの変異陽性大腸がん細胞株のisogenic cell lineを用いて検討し、変異陽性細胞株においてグルタミントランスポーターSLC1A5のタンパク質発現が上昇しており、さらに、PI3K/Akt経路またはMAPK経路の阻害薬はSLC1A5の発現を低下させる結果を得ている。上記の結果からSLC1A5が大腸がんの治療標的になる可能性を検討した。近年開発されたSLC1A5の阻害剤は大腸がん細胞の増殖を抑制することを確認したが、高濃度域においても持続的な増殖が認められた。これらSLC1A5阻害剤に抵抗を示す大腸がん細胞のシグナル伝達経路をwestern blotで調べたところ、Aktのリン酸化の亢進が認められた。そこで、SLC1A5の阻害剤とAkt阻害剤の併用の効果を検討したところ、SLC1A5阻害剤とAkt阻害剤は相乗効果を示すことを見出している。以上の経過から、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト大腸癌の原発巣、転移巣の切除検体を用いてRNA-seq解析、免疫組織化学染色を行い、転移巣において発現が変動している代謝関連の遺伝子、タンパク質を抽出する。それらのノックアウト細胞をヒト大腸癌細胞株を用いて作成し、脾臓あるいは回盲部に移植するxenograft転移モデルで実際に転移能が変化するかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度はヒト検体を使用するための倫理審査の申請などが必要であり、本研究の主要な部分を占めるヒト検体を用いた実験を次年度に行うこととしたため次年度使用額が生じた。次年度には、ヒト検体を用いたRNA-seq解析や免疫組織化学染色、動物実験への予算使用を予定している。
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