研究課題
多系統萎縮症(MSA)は小脳入力系や黒質線条体の髄鞘脱落と神経障害を呈するが、その機序は解明されていない。2023年はMSA病変のグリア細胞におけるギャップ結合蛋白コネキシン群の病理学的解析を行い、国際神経病理学会誌Brain Pathologyにfirst authorとして論文を掲載した。さらに、2023年にMSAにおけるオリゴデンドロサイト系統細胞を病理学的に解析している。MSA15例の剖検標本を使用し、小脳入力系白質でKluver-Barrera染色を行い、髄鞘脱落をStage I(軽度)、Stage II(中等度)、Stage III(重度)と病期分類した。オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)はNG2、ミエリン形成前オリゴデンドロサイト(preOL)はGPR17、BCAS1、ENPP6、成熟オリゴデンドロサイト(OL)はTPPPをマーカーとして免疫染色を施行した。Stage Iは5例、Stage IIは3例、Stage IIIは7例に分類され、Stage Iではリン酸化αシヌクレイン陽性グリア細胞質封入体を伴うTPPP陽性OLが多数観察され、進行とともにOL数は減少した。NG2陽性OPCはStage I、IIで多く認められ、Stage IIIでは減少していた。GPR17陽性preOLはStage Iで軽度の増加、Stage IIで顕著に増加し、Stage IIIで消失していた。BCAS1とENPP6陽性preOLは全ての病期で少数認められた。GPR17陽性preOLはStage Iで多くの突起を軸索に伸ばす所見をみとめ、Stage IIやStage IIIでは軸索との接着は見られなかった。GPR17はオリゴデンドロサイト分化の抑制因子とされており、MSAにおいて髄鞘脱落や再髄鞘化阻害に寄与している可能性が示唆され、新規治療標的となり得ると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
コネキシン蛋白群に関する研究は原著論文としてBrain Pathology誌に報告することができ、オリゴデンドロサイト前駆細胞に関する研究もヒトMSA剖検標本を用いた解析は順調に進行できている。
オリゴデンドロサイト前駆細胞に関して、ヒトMSA剖検標本から得られた知見を、私たちが樹立したMSAモデルマウスでも検証予定としている。GPR17の発現を病理学的検討および遺伝子発現解析を行い評価すること、さらにGPR17を標的とした薬剤を用いて治療効果が得られるか検証する。
病理学的検討に使用している一次抗体、二次抗体、各種染色関連試薬は当研究室で共用として使用可能なものから用いており、今年度は購入が少なく済んでいる。次年度に新たな抗体や試薬を購入予定としている。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Brain Pathology
巻: 33 ページ: e13131
10.1111/bpa.13131