研究課題/領域番号 |
23K19669
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森 雄貴 京都大学, 医学研究科, 医員 (30980429)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 脈絡膜厚 / メタ解析 / 疫学 / 脈絡膜血管構造 |
研究実績の概要 |
眼の主要構造の一つであり、眼局所だけでなく全身的なバロメーターとしても臨床的価値が認識されている脈絡膜について、その理解の基礎となる脈絡膜の正常疫学(主に厚みと構造)について解析を進めている。 本研究の第一の柱であるAsian Eye Epidemiology Consortiumのデータを用いたアジア人における中心窩下脈絡膜厚(SFCT)の多国間メタ解析の中で、まずはそのサブグループ解析として、日本人のデータ(3施設、計11,256人11,256眼)のメタ解析を行った。この中で、年齢・性別層別化したデータを日本人の年齢・性別分布に標準化し、日本人全体の平均SFCTが約280マイクロメートルであることを示した。我々は以前SFCTの年齢による菲薄化速度に性差があることを報告したが(Mori Y, et al. Ophthalmology Science. 2021)、この差は本メタ解析によっても示され(菲薄化速度は男性で-2.59マイクロメートル/年、女性で-1.31マイクロメートル/年と有意に男性が速かった(P < 0.001))、近年注目されているパキコロイド関連疾患の発症時期・性差への関連が示唆された。現在、他国のデータも含めたメタ解析が進行中である。 第二の柱として脈絡膜構造の評価方法についても検討を進めている。特に近年重要性が叫ばれているその血管構造の評価視標は、従来の評価方法では血管の量を過小評価してしまう問題点があった。その原因として従来法の画像処理に伴うノイズを疑い、それを除去する方法を複数検証し、従来の方法よりも蓋然性の高い結果を得た。しかし、検証した手法にもまだ改善の余地はあり、更なる検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アジア人約20000人の中心窩下脈絡膜厚(SFCT)データのメタ解析について。全体の解析に先立ち、日本人データ約11000人についてサブグループ解析を行い、第129回京都眼科学会にて発表した(演題名:日本人の脈絡膜厚のメタ解析、筆頭演者:森雄貴)。この解析結果をさらに拡張すべく、アジア人約20,000人分のデータを用いた多国間メタ解析を進めているが、各グループからのデータに複数の不備や再確認を要する点があったことから解析が遅れ、現在論文執筆中の段階である。 脈絡膜評価パラメータについて。従来血管構造パラメーターとしてよく用いられてきたchoroidal vascularity index(CVI)に算出手法に起因する問題点(二値化処理に起因するアーチファクトが症例や撮像条件ごとに不均等な影響を及ぼし、全体の分布を不適当に歪めていること)を発見した我々は、そのアーチファクトを除く手法を複数検証し、従来法との比較を行い、その結果について第39回日本眼循環学会(演題名:Choroidal Vascularity Index算出におけるdenoise処理、筆頭演者:中田愛)、第128回日本眼科学会(演題名:健常日本人における脈絡膜血管構造パラメーターの比較、筆頭演者:岡由佳子)で発表した。これらの検討により、従来法に比較して蓋然性の高い評価ができることが示唆されているが、依然として問題点もあり、更なる方法論の改良を検討中である。脈絡膜厚の関数データ解析については現在進めている最中であり、クローズドな研究会レベルでの発表は既に行っている。これまで扱ってきたスカラー量とは結果の見た目も異なるため、その解釈も含め、検討をさらに進めている。
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今後の研究の推進方策 |
アジア人約20,000人分のデータを用いた多国間メタ解析は現在論文執筆中である。東アジア人(日本人+中国人)、南アジア人(マレー人+タイ人)、西アジア人(インド人+イラン人)に分けたサブグループ解析によって、アジア人全体の中心窩下脈絡膜厚(SFCT)の傾向および、全身因子や眼科的因子との関係性を明らかとする結果が得られている。なお、そのうち我々が所有するながはまスタディ由来の光干渉断層計(OCT)画像データからは、人工知能を用いて脈絡膜を自動的に同定するモデルの構築も行った。現在、東北メディカル・メガバンク機構が持つOCTデータに対してこのモデルを適応し、脈絡膜に関する正常眼データをさらに増やす準備を進めている。 脈絡膜血管構造パラメーターの改善手法については、現在までの検討内容によって論文化を進める(多少追加を考慮している検討内容もある)。脈絡膜パラメーターの新規創出については、関数データ解析を用いた方法は引き続き検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画に遅れが生じているため。 また、今年度は物品の追加購入が結果的には不要となったため。
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