研究実績の概要 |
高齢者では血中の炎症性サイトカイン増加や組織における炎症シグナルの活性化がみられる(Shaw AC et al., 2013)TNF-alpha は代表的な炎症性サイトカインであり,TNF-alphaが誘導するNF-κBシグナルは骨格筋の萎縮やサテライト細胞の増殖分化に関わる(Cai D et al., 2004).われわれの研究室においても,マウス後肢の前脛骨筋(TA)を用いた実験から,CTXにより誘導された筋再生に伴うNF-κBシグナルの挙動を明らかにし,NF-κBが筋分化を強力に抑制することを見出した(Shirakawa T et al., 2021).しかしながら,このように,ほとんどの骨格筋研究は四肢筋を対象としたものであり,舌筋を観察したものは皆無である.また,昨今の生命科学研究では,老化と炎症をそれぞれ独立した因子ではなく,包括的に捉えることの重要性が強調されている.一方で,舌がんは粘膜下の筋層に浸潤すると予後が悪い.そのためがん細胞の筋層浸潤の制御は重要な課題であるが,そのメカニズムには不明な点が多い.舌がんが粘膜下の舌筋に浸潤する際,がん細胞周囲の筋線維に侵害刺激を与え炎症や再生が誘導される.実際にヒトの舌がん症例を確認したところ,がん浸潤部位の周囲に多くの炎症性細胞の集積を認め,さらに中心核を持つ再生舌筋が出現していることをみつけることができた.今年度舌にCTXをインジェクションすることで舌筋の再生を誘導した.インジェクション後0日,3日,10日後にサンプリングしシングルRNA-seq解析を実施した.
|