研究課題/領域番号 |
23K19754
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
八戸 勇樹 岩手医科大学, 歯学部, 常任研究員 (90982348)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 注入型骨補填材 / 温度応答性 / DDS / ゲニピン / コラーゲン / スタチン |
研究実績の概要 |
注入型骨補填材による骨増生は侵襲性の低い手法で骨造成を期待できるため、歯科領域においてその実用化が強く望まれている。本研究では、注入型材料の基材として温度応答性を有するゲニピン架橋コラーゲンを用い、骨形成因子としてスタチン系薬剤を選択、ナノレベルDDS担体としてヒアルロン酸ナノゲル(HANG)とナノ粒子ハイドロキシアパタイト(nHAp)からなる複合材料を調製し、薬剤結合状態や担持効果をin vitroで評価すると共に、小動物を用いた動物実験による骨形成効果の検討を行い、本注入型複合材料の有効性を多面的に検証することとした。 これまでの研究活動において、ゲニピン粉末をPBS溶液に溶解させコラーゲン架橋液を調製し、加えてヒアルロン酸ナノゲル原料を蒸留水で溶解した後、フルバスタチンNa(Flu)およびnHApを複合化させ、骨形成因子含有DDS担体を調製した。上記の2試料とⅠ型コラーゲン溶液を混和し、最終的に2.5mg/mlのⅠ型コラーゲン、1.25mg/mlのヒアルロン酸ナノゲル、0.1875mg/mlのnHAp、1mMのゲニピン、2.5mg/mlのFluの複合試料を調整した。 本調製試料において、まず温度変化による物性変化の観察実験を行い、25℃条件下において少なくとも60minの流動性の維持が確認され、37℃条件下では5min程度で速やかにゲル化することが確認された。また、ラットを用いた動物実験にて、背部皮下における試料の生体吸収性の確認と、頭蓋骨上での骨形成効果の確認を行った。結果として、生体吸収性の確認実験では、調製試料は1週間時点で完全に吸収されることが確認された。また、頭蓋骨上での骨形成効果の確認実験では、H-E染色組織標本おいて視覚的に骨形成が確認できるサンプルとできないサンプルが混在しており、本複合試料の適用群において共通して骨形成を示す傾向は確認できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究における注入型骨補填材が具備すべき条件は、注射により適応可能な流動性を持つゾル状態を初期に有すること、生体注入後の温度変化をトリガーとしてゲル化し、材料の漏出防止および骨形成のためのスペースメイキングを行うこと、骨形成効果を持つ成長因子・薬剤を配合し、骨形成を誘導すること、薬剤伝達システム(DDS)を応用して骨形成因子を長期的に担持・徐放することである。これら材料の選択および複合化方法の確立は完了しており、現在は骨形成因子の担持能力および実際の骨形成効果について評価を行っている段階である。しかし、各種実験において、物性の変化および骨形成に一部成果を認めるものの、十分に満足する結果を現状は得られていない。このことから、調製試料の配合条件の見直しを行っているため、当初の計画より若干の遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
現状の調製試料は生体内残存期間が1週間以内と短く、骨形成に寄与する期間に制限があった。骨形成効果を持続するためには、残存期間の延長と骨形成因子の高配合化が必要であると考えられ、調製試料の配合条件について再度検討を行う。具体的には、コラーゲン濃度およびスタチン系薬剤の配合量の増加を予定しており、In vitroの実験として、酵素による分解挙動の評価や骨形成因子の溶出量の確認試験を行う。また、In vivoの実験として、ラットを用いた生内吸収性の確認および、骨形成効果の確認実験を行い、注入型骨補填材としての有用性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
統計的に十分なサンプルサイズを設定した動物実験を行う予定であったが、予備実験の結果から使用する試料の配合条件を変更する必要が生じたため、予定の動物実験に関わる予算執行が先延ばしとなった。調製試料について、より効果的と期待できる配合条件に変更した後、上記動物実験を行うことで、繰り越しとなった予算の執行を行う。
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