研究実績の概要 |
細胞代謝は、生体組織の恒常性維持に不可欠であり、特に歯周組織の再生において重要な役割を果たす。本研究は、細胞内のグルコース代謝とアミノ酸代謝が歯周組織再生に及ぼす影響に焦点を当てた。今までは、グルコース代謝が歯肉線維芽細胞のオートファジーを誘導し、創傷治癒を促進することを明らかにした(Li R, et al. Sci Rep 2022, 12, 1230)。さらに、令和5年度には、アミノ酸代謝が硬組織分化に関与する可能性について検討し、必須アミノ酸が骨芽細胞分化を制御する新たな知見を提供した(Li R, et al. Biochem Biophys Res Commun. 2023; 672: 168-176)。 本研究の目的は、細胞のアミノ酸代謝が歯周組織再生に応用できるかを分子生物学的・遺伝子レベルで検討し、新規歯周組織再生療法の開発に寄与することである。これにより、細胞代謝を活性化させることで歯周組織再生を促進する、新しい治療法の基盤を構築することを目指している。 研究は、in vitroおよびin vivoの両面から進められ、特にin vivo実験ではSD系ラットを用いた骨欠損モデルを通じて、アミノ酸代謝が歯周組織再生をどのように促進するかを評価する。本研究は、これまでの歯周組織再生研究とは異なる新たなアプローチを提供し、細胞代謝を利用した治療法の可能性を探るものである。 さらに、申請者は国内外の学会においても積極的に成果を発表しており、2023年度日本歯科保存学会で奨励賞を受賞し、業績を公表している。これらの活動が、本研究の学術的価値と応用の可能性を広く認識させるものとなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究プロジェクトは、細胞のアミノ酸代謝が歯周組織再生に及ぼす影響を探求し、新規歯周組織再生療法の開発を目指している。これまでの進捗は全体的に順調であり、令和5年度の成果として重要な学術論文の公表と学会発表を行うことができた。 具体的には、必須アミノ酸の欠乏がマウスの骨芽細胞様細胞においてDNA損傷とアポトーシスを誘発することを「International Journal of Molecular Sciences」で公表し(2023年、Vol. 24, 15314)、同様に「Biochemical and Biophysical Research Communications」にて、必須アミノ酸欠乏が細胞周期の停止、オートファジーの誘導、及び骨芽細胞の分化能の抑制に寄与することを報告した(2023年、Vol. 672, pp. 168-176)。 また、第66回春季日本歯周病学会学術大会での発表では、グルコース飢餓による酸化ストレスがヒト歯肉線維芽細胞における炎症性サイトカインの発現とオートファジーを誘導する研究が高く評価された(2023年5月26日、高松)。 自己評価としては、研究の進行は計画通りに進んでおり、期待された研究成果を得ることができている。特に、細胞代謝が歯周組織再生に与える影響を明らかにすることで、臨床応用に向けた基盤を確実に構築している。引き続き、in vitroおよびin vivoモデルを用いた実験を進め、歯周組織再生におけるアミノ酸代謝の役割をさらに詳細に解明する予定である。
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