コカイン毒性のメカニズム解明は法医学における重要な課題の一つである。コカインの長期乱用は冠動脈アテローム性動脈硬化症や肺高血圧症などの心肺血管疾患と関与する。血管リモデリングはコカイン乱用による血管疾患における顕著な病理学的特徴であり、酸化ストレス/HIF-1α/ダイナミン関連タンパク質1(DRP1)依存性ミトコンドリア分裂経路が新たなメカニズムとして報じらた。血管平滑筋細胞(vSMC)における酸化ストレスとミトコンドリア機能異常がHIF-1αを活性化し、DRP1依存性ミトコンドリアの分裂を誘発し、vSMCの増殖を促進することが報告されている。しかし、コカインの長期的な乱用によるvSMCの過剰増殖がこの経路を経由するかどうかは未だ解明されていない。 本研究では、in vivoおよびin vitroコカイン乱用モデルで、コカインが酸化ストレス/HIF-1α/DRP1依存性ミトコンドリア分裂経路を介してvSMC増殖に及ぼす影響を検証した。14日間コカイン連続投与したラットでは、肺中小動脈の血管壁肥厚、肺での酸化ストレスの蓄積、HIF-1α発現増加、DRP1依存性ミトコンドリア分裂の活性化を確認した。7日間コカイン投与したA7r5細胞でも、細胞増殖の亢進、酸化ストレスの蓄積、HIF-1α発現増加、DRP1依存性ミトコンドリア分裂活性化が見られた。更に、ミトコンドリア分裂阻害剤Mdivi-1とコカインの共投与したA7r5細胞では、細胞内酸化ストレスが減少し、HIF-1α発現増加とDRP1依存性ミトコンドリア分裂の活性化が緩和され、vSMCの増殖も軽減された。これにより、コカインの長期投与が酸化ストレス/HIF-1α/DRP1依存性ミトコンドリア分裂経路を介してvSMCの過剰増殖を引き起こすことを明らかになった。この機序の解明はコカインによる血管毒性に新たな知見を与えると考えられる。
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