研究課題/領域番号 |
23K19926
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
和泉 優奈 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 助教 (20980163)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 骨格筋 / 臓器連関 / アミノ酸代謝 / 褐色脂肪組織 / 体温維持 / IL-6 |
研究実績の概要 |
本年度はまず、体温調節における骨格筋とBATとのアミノ酸代謝連関に対する制御因子としてのIL-6の役割を明らかにするため、(1)IL-6が骨格筋アミノ酸代謝に与える影響についての解析、(2)骨格筋由来IL-6の発現調節メカニズムの解明、(3)IL-6が骨格筋遊離BCAA濃度を上昇させる分子学的機序の解明に取り組んだ。研究成果としては、(1)IL-6欠損マウスの骨格筋を不動化してアミノ酸代謝を解析したところ、骨格筋を不動化したIL-6欠損マウスは骨格筋での遊離BCAA濃度の上昇が抑制され、野生型マウスと比して著明な寒冷不耐性を認めることが示唆された。また、IL-6欠損マウスに対するリコンビナントIL-6の投与実験や細胞実験から、IL-6は直接的に骨格筋細胞の遊離BCAA濃度を上昇させることが示唆された。(2)両後肢の不動化マウスでは、不動化されていない前肢の骨格筋でも不動化後にIL-6遺伝子発現量の増加と遊離BCAA濃度の上昇が認められた。これより骨格筋におけるIL-6発現と急性期のアミノ酸代謝変化には全身的な機序が想定され、交感神経系の関与を検討した。マウスに対する急性寒冷曝露は骨格筋でのIL-6遺伝子発現量と遊離BCAA濃度を増加させた。一方でIL-6欠損マウスでは急性寒冷曝露による骨格筋中遊離BCAA濃度の上昇を認めなかった。マウスあるいは培養筋細胞に対するβアドレナリン受容体刺激では、骨格筋のIL-6遺伝子発現量が増加することが示唆された。(3)メタボローム解析より不動化された骨格筋でオートファジーを活性化することが知られる代謝産物であるスペルミジン濃度が上昇することが示唆された。対してIL-6欠損マウスではスペルミジン濃度の上昇は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は(1)IL-6は体温調節における骨格筋のアミノ酸代謝に重要な役割を担い、(2)βアドレナリン受容体刺激が骨格筋のIL-6発現を増加させる可能性があること、(3)βアドレナリン受容体刺激はIL-6を介して急性の代謝反応としてのアミノ酸代謝変化を引き起こすが、このような代謝変化の上流にはポリアミン経路あるいはオートファジー経路が関与する可能性があること、が新たに見出された。体温調節における骨格筋とBATとのアミノ酸代謝連関に対する制御因子としてのIL-6の役割を明らかにするためには、更に詳細な解析を進めていく必要があるものの、現段階ではおおむね予定していた計画通りに研究が遂行できている。また、当初の計画内容である「骨格筋-BATアミノ酸代謝連関による体温維持機構が廃用性筋萎縮に与える影響」については、UCP1欠損マウスやBAT切除マウス、BAT lessマウスを用いて既に解析を進めている段階であり、「代謝性疾患に対する骨格筋-BATアミノ酸代謝連関の役割」、「骨格筋不動化および代謝性疾患モデルの骨格筋萎縮に対する栄養学的介入法の検討」についてもいくつかのモデルマウスを用いて検討を進めている段階である。したがって研究計画全体と通しておおむね順調に進展していると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通りに研究計画を推進する。具体的にはまず、骨格筋-BATアミノ酸代謝連関による体温維持機構が廃用性筋萎縮に与える影響」を明らかにするため、脂肪細胞特異的にp27を過剰発現させることで褐色脂肪細胞の増殖能力を欠いたBAT欠損マウスやUCP1欠損マウスの骨格筋を不動化し、BATの熱産生が骨格筋アミノ酸代謝変動を介して骨格筋萎縮に与える影響を解析する。また本年度の研究成果より骨格筋由来IL-6は交感神経系の活性化を介して分泌されることが示唆されていることから、これらの遺伝子組み換えモデルに対して急性寒冷曝露をおこない骨格筋のアミノ酸代謝を解析する。さらに、「代謝性疾患に対する骨格筋-BATアミノ酸代謝連関の役割」を明らかにするため、食餌誘発性肥満モデルマウスやストレプトゾトシン誘発性糖尿病モデルマウスを用いて骨格筋とBATのアミノ酸代謝動態を解析し、骨格筋-BAT間アミノ酸代謝連関に対するIL-6の役割を検討する。「骨格筋不動化および代謝性疾患モデルの骨格筋萎縮に対する栄養学的介入法の検討」としては、BCAAやロイシンの投与が筋萎縮モデルマウスにおける骨格筋とBATとのアミノ酸代謝連関による体温調節機構にどのような影響を与えるか、さらに骨格筋萎縮に有益な効果を示すか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は培養細胞を用いた実験を多く行い、学会発表にかかる経費も少額で抑えられたため、次年度使用額が生じた。翌年度分の研究費と合わせて、本年度解剖を行ったマウスのメタボローム解析や新たな動物モデルの解析、さらに得られた研究成果を学会発表または国際誌に投稿する。その費用に使用予定である。
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