研究課題/領域番号 |
20H01218
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
Kim JoonYang 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (00749955)
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研究分担者 |
板倉 史明 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (20415623)
木村 智哉 開志専門職大学, アニメ・マンガ学部, 准教授 (30636030)
松本 淳 敬和学園大学, 人文学部, 准教授 (60845288)
石田 美紀 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (70425007)
原田 健一 新潟大学, 人文社会科学系, フェロー (70449255)
三俣 哲 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (80322006)
米村 みゆき 専修大学, 文学部, 教授 (80351758)
今井 博英 新潟大学, 経営戦略本部, 准教授 (90303172)
須川 亜紀子 横浜国立大学, 大学院都市イノベーション研究院, 教授 (90408980)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | アニメ中間素材 / デジタル・アーカイブ / 文化資源 / セル画の保存 |
研究実績の概要 |
前年度に、本研究成果の公開として開催した展覧会「原画から見るTVアニメ」及び「TVアニメの透視模型」に引き続き、本年度は同じ展覧会を国際アニメーション学会(SAS)と日本アニメーション学会(JSAS)との共同企画による学術大会の会場(横浜)で会期中に実施した。この展示活動と共に、アナログ時代のアニメ中間素材を現代のメディア環境のなかに配置する創造的実践の方向性と、その実践に関する再メディア化(remediation)論的な考察を行った。 アニメ中間素材データベース(AIMDB)のオンライン閲覧システムについて、メタデータのの最新状態を維持させるための管理機能と、研究者ユーザー側の記録機能を向上させた。同システムをアニメ業界の実務家らに使用頂き、そこで得られたフィードバックを整理し報告を行った。『ゴルゴ13劇場版』(1983)のアーカイブ化処理済みの絵コンテをもとに、当時のアニメ業界におけるCG映像制作工程の実態を一部明らかにした。 セル画の劣悪な保存環境による異質の素材同士の接着問題に取り組み、復元試料を水に浸漬すると剥離力が激減することは判明したが、脆性も高くなるため、本年度は紙の力学強度を簡便に高くすることを試みた。紙とグルコース(Glc)などいくつかの物質とを複合化した複合紙の力学特性を調査した結果、一部の複合紙について力学的性質の著しい向上が認められ、紙の力学強度を簡便に改善できることが示唆された。 本研究を通してアーカイブ化されてきたアニメ中間素材の全研究成果を発表する研究報告会を第2回新潟国際アニメーション映画祭のForumプログラムとして実施した。 スペインのバルセロナ自治大学(UAB)主催のオンラインコンファレンス、イギリスのDurham University主催の対面コンファレンスに参加し、本研究成果に基づく発表を行い、国際的な学術協力関係を強化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、前年度の諸研究成果を踏まえ、それらをより一層進展、拡大させた。2022年度に開催した「原画から見る1980年代TVアニメ」展、「TVアニメの透視模型」展に引き続き、日本アニメーション学会と国際アニメーション学会共催による学術大会の会場で「TVアニメの透視模型in JSAS/SAS大会」展を実施し、国内外から参加した研究者、専門家らに多くの注目を浴びた。同大会のシンポジウムで映像作家の五島一浩氏は、展覧会で展示した自らのインスタレーション作品「Peel-Apart TV Anime」について発表を行い、本研究活動と意義への理解を拡大させることができた。 本研究で独自に開発したアニメ中間素材向けオンライン閲覧システムと、その一般向けのテキスト版データベースのウェブサイトが国際的に注目され、ドイツのシュトゥットガルト・メディア大学、フランスのロレーヌ大学、スペインのバルセロナ自治大学所属の研究者らが、アニメ中間素材のフィジカル資料体を調査するため、収蔵先である新潟大学を訪問し研究協力と交流を行い、本研究で構築してきたアニメ中間素材アーカイブの体制と機能について高い評価を受けた。 以上のように本研究は、すでにその研究成果を学界や社会に向けて積極的に共有・公開し、国際的にも研究協力を実践している。第2回新潟国際アニメーション映画祭と協力することで、本研究の報告会を開催するなど地方創生という面でも貢献している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究がこれまで実行してきたアニメ中間素材のアーカイブ化と、これを用い提示してきた分析・保存・活用のモデルケースを拡張しつつ 、現在のデジタルメディア生態系における再メディア化(remediation)の可能性と方向性を明らかにする。そのため、映像メディアの再定義という問題を長年作品作りを通して実践してきた映像作家の五島一浩氏との協力を続ける。 メディア論、映画理論、ジェンダー論、産業史、コンテンツビジネス論の観点から、特定作品の脚本、絵コンテ、原画などアニメ中間素材を精査・分析することで、アニメ作品の生成過程とそのなかで周縁化されがちだった制作スタッフの遂行行為性の側面とを包括する研究方法論の実例を提示し、その研究成果が持ちうる社会的、技術的、産業的意義を明確化していく。また、アニメ制作現場の関係者へのヒアリングを通して、協働という側面からアニメ中間素材及び制作過程の詳細の検証を継続する。 紙と接着状態にあるセル画の剥離実験について、純水とエタノールに加え、溶媒の種類を増やし同様の実験を実施すると同時に、良溶媒を特定するため、関連高分子素材の溶解度パラメータ調査を並行して実施する。セル画の復元試料に対しても同様の実験を行い、各溶媒での剥離挙動を観察する。 アニメ中間素材というフィジカル資料体およびそのデジタル画像データのアーカイブへのアクセス及び活用を巡って提起される諸課題を明確化し、将来に向けて文化資源としての再認識と保存に資する。そのアニメ中間素材の保存・管理のため、本研究課題が情報工学技術を活かし実装してきたデータベースシステムをより一層発展させ、更にオープンソース化を目指す。 ドイツのシュトゥットガルト・メディア大学、スペインのバルセロナ自治大学、イギリスのダラム大学側との研究協力を継続、進展させる。
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