研究課題/領域番号 |
20H01289
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 日本社会事業大学 |
研究代表者 |
斉藤 くるみ 日本社会事業大学, 社会福祉学部, 教授 (30225700)
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研究分担者 |
高山 亨太 日本社会事業大学, 付置研究所, 研究員 (00869919)
日置 淑美 日本社会事業大学, 付置研究所, 研究員 (00869977)
末森 明夫 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (20357255)
福島 智 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (50285079)
日比野 清 日本社会事業大学, 付置研究所, 研究員 (50310222)
斉藤 みか 日本社会事業大学, 付置研究所, 研究員 (60851805)
槻舘 尚武 山梨英和大学, 人間文化学部, 准教授 (80512475)
大野 ロベルト 法政大学, 国際文化学部, 准教授 (80728915)
佐伯 敦也 日本社会事業大学, 付置研究所, 研究員 (90881673)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 英語検定 / 視覚障害 / 聴覚障害 |
研究実績の概要 |
今年度は昨年度までの各種英語検定の配慮の検討をふまえて、視覚障害・聴覚障害と言語活動の関係についての脳科学的研究結果を集めた。手話については音声言語と同様に脳の言語野で生成・理解されていることが証明されている。しかし手話には文字も音声も存在しない。リーディング・ライティングという概念もリスニング・スピーキングという概念も成立しないが脳科学的に言語である。四技能と言語能力は必然的な関係はないのである。 視覚障害者は6つの点を触って「読む」。oral でもliteralでもなく、tactile(触覚)という、第三のモダリティが登場してくる。彼らが触覚で点字を読むときに、晴眼者が文字を読んでいるときの脳とまったく同じ部分が働いていることがわかった(Striem-Amit & Amedi 2014他)。また昨今視覚障害者はスクリーンリーダーにかけて文字を「聞く」ことが多い。音声(oral)で聞いているからと言って、これをリスニング能力と考えるのは間違いである。 一方、リーディング・ライテイングを触覚や聴覚を使って行うことは脳科学的に証明されているが、単純にモーダリティーを転換すれば公平・公正であるということではない。 既に読んだ情報を視線を動かして「見ながら」参照(refer)しながら読み進めることと、点字や音で得た情報を記憶したものを「思い出す」のは違う。リーディングの試験は前者を前提に作成されている。試験となると、全体を見渡せるかどうか、つまりある部分と別の部分を行き来してrefer できるかで大きな差がつく。 手話が脳の言語野で生成・理解されていることを考えると、リスニング、スピーキングという概念が言語能力を表すものではないということは明らかであり、CEFRでは手話の能力検定についてもまったく独自の基準を示している。これを英語に応用できないかは今後の研究の課題のひとつである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は以下を明らかにすることである。 第一に、既存の外国語能力測定法で、視覚障害、聴覚障害、吃音、ディスレクシア等の受検者の英語能力をどの程度正確に測ることが可能なのか。第二に、既存の英語の検定試験の障害者の「配慮」の方法は、認知科学的な知見と英語教育の評価の理論に照らして、適切なのか。第三に、マジョリティたる健常者のための測定方法以外に英語能力は測れないのか。視覚・聴覚等に縛られた4技能(あるいはinteractionを含め5技能)という切り口ではない測定の方法はないのか。視覚・聴覚、あるいは音声表出に縛られない本質的な言語能力を測定する方法はないのか。第四に、認知科学等の新たな知見は言語能力の検定にどこまで応用可能か。第五に、外国語の能力の視点でモダリティ(五感)とは何か。リタラシーとオラリティとは何か。第六に、外国語の能力の測定において障害者の権利・言語文化モデルを実現することは可能か、である。本年までに第一、第二、第五が明らかになった。 今年度は最近の視覚障害、聴覚障害の認知構造に関する研究成果をアップデイトした。既に終了した「オラリティと社会」(特設基盤B)による成果も取り入れていれ、モーダリティ―まどわされず外国語能力を測定する方法を探っている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに国内外の英語検定試験の配慮等を調査し、今年度は視覚・聴覚障害と言語活動の関係についての脳科学的研究の結果を集めた。マジョリティのモーダリティに合わせて固定化された検定の方法は、視覚・聴覚障害をもつ人たちには、まったく適合しないことが示せた。双方のモーダリティに合わせた検定の方法が開発できれば、視覚型・聴覚型の学習障害や、吃音の受検者にも応用できると考えている。また受験の方法だけでなく、試験の題材が、障害のある受検者に著しく不利益になっている例を抽出する予定である。たとえば色について書かれていれば見えない人には意味がないし、全盲でなくても弱視であっても地図などは拡大すると全体を見渡せないため、極めて把握しにくい。音についての記述はろう・難聴の受検者には意味をなさない。本研究チームには視覚・聴覚障害当事者である研究者が多いため、題材がゆえに解答不可能なものを取り出すことができると考えている。さらに盲ろう者のための試験のあり方についても検討を始める。
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