研究課題/領域番号 |
20H01289
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
斉藤 くるみ 東京大学, 先端科学技術研究センター, 客員研究員 (30225700)
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研究分担者 |
高山 亨太 日本社会事業大学, 付置研究所, 研究員 (00869919)
日置 淑美 日本社会事業大学, 付置研究所, 研究員 (00869977)
末森 明夫 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (20357255)
福島 智 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (50285079)
日比野 清 日本社会事業大学, 付置研究所, 研究員 (50310222)
斉藤 みか 上智大学, 基盤教育センター, 助教 (60851805)
槻舘 尚武 山梨英和大学, 人間文化学部, 准教授 (80512475)
大野 ロベルト 法政大学, 国際文化学部, 准教授 (80728915)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 視覚障害 / 聴覚障害 / 英語教育 / 能力測定 / 検定試験 |
研究実績の概要 |
今年度は、昨年度までの研究成果を裏付ける二つの大きな進展があった。一つは、コロナ禍による各種語学検定試験のオンライン化であり、二つ目は政府による共通試験への各種英語検定の導入提案、後に凍結、その後東京都の高校入試へのリスニング導入の議論である。 まず前者については、視覚障害者にとって点字受検の際、前後を見渡すことが難しくなり、聴覚障害者にとっては口話で面接を受ける受験者には非常に見にくく、また難聴者で聴力を使う受検者にも著しく聞き取りにくい状態になった。また360度誰もいないことを画面で示して受験する方法では支援者同席の受験ができないため、受験を諦める人も生まれた。 後者については、読む・書く・聞く・話すと言う4技能で英語力を測ることが適切なのかという議論が初めて健常者である受検者のために論じられたことが挙げられる。これは本チームが脳科学的アプローチから提案してきたことと一致する。すなわち言語を読むという行動は視覚と必然的な関係はなく、言語を聞くという行動も聴覚と必然的な関係はないということである。検定の枠組みを根本的に見直すことの必要性を明確にすることができた。一案として「生成」か「理解」かという分け方が有力であると考えた。さらに障害者権利条約でいうところの文化的同一性の承認から試験を見直すことも進めた結果、文化的(認知の違いが影響する)に不公正である問題が多数見つかった。 accommodation(配慮)ではなく、customizeが必要であるということが正当であれば、障害当事者の専門家が試験問題を作る、あるいはせめて作問に参加することは必須である。来年度の準備として障害当事者を中心とするグループが作問に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記二点、すなわち各種英語検定がオンライン化したために視覚障害者・聴覚障害者の不利益がより明らかになったことと、検定を競争資金に導入することの反対意見から4技能を問い直す動きが生まれたことのおかげで、課題がより明確になり、国際学会でもまず健常者についての問題を説明することからプレゼンテーションを始めることができるため、理解が得易くなった。 従来の英語検定の中での不利益はチームの中の当事者に分析してもらった。さらにコンテンツの文化的問題については、分担者それぞれの分野で視覚情報・聴覚情報が何を意味するかを、前年度までの科研のオラリティとリタラシーの研究との関連で考察することで展開した。今後も引き続き各分野の視点で考察を進めており、それぞれの分担者がそれぞれの分野の特性を活かして、2023年までに発表する準備をしている。 また文化の違いが検定においてどのような不公正につながるかを調べるために、古典文学を英訳して現代の生徒・学生の英語の問題のコンテンツにして、英語能力を測定することにどのような影響があるかを調べる準備も進んでいる。さらに古典文学をバイリンガル教材にして日米の高校生両方に学ばせ、理解の支障になるものを取り出した。 最終年度の総括レポートとして、多様な分野の分担者が最終目標にどのように貢献できたかをシンポジウム形式で出し合い、全国に発信する準備ができつつある。
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今後の研究の推進方策 |
メンバーのうち視覚障害・聴覚障害の当事者は引き続き試験問題の不利益を考察し、4技能ではなく「生成か理解か」「受動か能動か」という枠組みをどういう形式の試験問題に反映させるかを検討する。また分担研究者はそれぞれの分野を活かして、英語の作問に不利益になり得る要素を集める。障害者の文化的同一性については、育った国等で培われる文化というものを越えた認知的な異文化である視覚障害・聴覚障害をもつ受検者の不利益を証明する。まず時代的に異文化である古い歴史や文学などの題材が英語力を測るのにどの程度支障になるかということを日本の古典文学を英訳したものを試験問題にすることで調べているが、さらに試作・試験を進める。 一方、日本古典文学の動画とバイリンガル教材を使って、アメリカの高校生と日本の高校生のオンライン交流を行った結果の考察も分担研究者が公表する。また新しい枠組みで、作成した試験問題と、従来の健常者のみを視野に作成された問題とを、視覚障害・聴覚障害の受検者に解答してもらい、得点の違いや誤りを、チームの中の測定の専門家が評価する。以上の工程の中で試験作成の手引き(チェックリスト)を作成する。 また工程がほぼ終了したところでシンポジウム形式の意見交換会を行うこと、その結果を総括レポートとして公表することを計画している。
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