研究課題/領域番号 |
20H01341
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
松本 雄一 山形大学, 人文社会科学部, 准教授 (90644550)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | アンデス文明 / セトルメント・パターン / 石器分析 |
研究実績の概要 |
コロナ禍によって、予定していた申請者のペルーへの渡航が不可能となったため、主に現地在住の研究者と連携を取りながら可能な研究調査活動を行った。その実績は大きく4点にまとめられる。第一にセトルメント・パターンとGISによる分析に関しては、ペルー在住の研究者と協力し、現在位置の特定がされている遺跡および黒曜石産地のデータをカンパナユック・ルミ遺跡周辺の地形データに組み込み、セトルメントパターン研究のための基礎となる地図データを作成した。これによって、形成期中・後期(紀元前1000年-紀元前500年)のアンデスにおける地域間交流を考察する鍵となる黒曜石に関して、その産地と神殿の分布パターンをめぐる相関関係を考察することが可能となった。第二に、ペルー人考古学者と連携して、これまでのカンパナユック・ルミ遺跡の出土遺物の分析を進め、今後遺物の時期同定を踏まえて他遺跡との比較を行う際の基準となるデータベースの作成を進めた。第三に、本研究の対象となるアヤクチョ地域との比較研究において重要となるペルー、ワヤガ川上流域のセトルメント・パターンのデータを総括したモノグラフを2020年8月に刊行し、形成期中・後期におけるセトルメント・パターンの変化が異なる地域でも連動していることを明らかとした。第四に、これまでのカンパナユック・ルミ遺跡の調査で得られた資料に関して、遺構と層位との関係が明確な地点から年代測定用資料の抽出を行った。今後は、コロナ禍によって、不可能となっている輸出手続きをできるだけ早く進める予定である。以上に加えて、研究成果の社会還元として、学会発表・学術論文の出版に加え、一般向けの講演及び書籍の編集にも積極的に関わった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍により、予定していた現地における踏査はできなかったが、現時点で使用可能なデータを総括し、カンパナユック・ルミ遺跡の周辺地形の三次元データと先スペイン期の遺跡の位置データを統合することができた。ここに近年増加した同遺跡周辺に位置するより小規模な神殿遺跡のデータを組み込むことで、形成期中・後期(紀元前1000-紀元前500年)における黒曜石の地域レベルでの輸送ルートに関する知見が得られた。アンデス全域への黒曜石の流通において、カンパナユック・ルミ遺跡が重要な役割を果たしたことはこれまでの研究で明らかとなっていたが、それぞれの産地と同遺跡の関係性は不明瞭であった。今回の研究によって、河川が黒曜石の流通ルートとして重要な役割を果たしたという見通しが得られた。今後はこの結果を検証し精緻化するための補足的な踏査を行うことが望ましいと考えられる。また、カンパナユック・ルミ遺跡の出土遺物の分析を通じて、地域的な遺物のバリエーションとその編年上の位置づけがより精緻な形で明らかとなり、周辺に位置する遺跡との関係性を論じるための基礎的データが収集された。これによって今後、一遺跡を超えた地域レベルでの通時的動態へとアプローチすることが可能となる。また、そのために欠かすことのできない絶対年代データに関しても、コンテクストを吟味したうえでのサンプルの抽出が完了しており、輸出手続きが再び可能となるのを待つばかりとなっている。また、本研究の焦点であるアヤクチョ地方に加え、約450㎞離れたワヤガ川上流域のセトルメント・パターンを整理することで、アンデス形成期における通時的動態を地域を超えて比較することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
ここまで行うことができなかった絶対年代に関するデータを獲得することがまずは必要である。その後は当初の予定通り、カンパナユック・ルミ遺跡の発掘調査を行う必要がある。これまでの調査によって地域レベルでの基礎データは充実しているが、社会変化の通時的動態を考察するためには、一遺跡を単位としたよりミクロなレベルでの分析が必要である。カンパナユック・ルミ遺跡においてはこれまでの調査によって「神殿」、「神殿外部の儀礼空間及び居住域」の存在が想定されている。それぞれに発掘区を設定して出土遺物の体系的な比較を行うことで、地域間交流と社会変化が遺跡内部の機能差にどのように反映されているかを考察することが必要となる。また出土遺物に関しては、コロナ禍において不可能であった遺物の輸出を伴う理化学的手法を用いた分析(土器の胎土分析、同位体分析)を行っていく必要がある。
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