研究課題/領域番号 |
20H01351
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 淑徳大学 |
研究代表者 |
三宅 俊彦 淑徳大学, 人文学部, 教授 (90424324)
|
研究分担者 |
櫻木 晋一 朝日大学, 経営学部, 教授 (00259681)
小林 淳哉 函館工業高等専門学校, 物質環境工学科, 教授 (30205463)
小田 寛貴 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 助教 (30293690)
菊池 百里子 (阿部百里子) 東京大学, 東洋文化研究所, 助教 (50445615)
古賀 康士 九州産業大学, 経済学部, 講師 (50552709)
松英 達也 新居浜工業高等専門学校, 環境材料工学科, 教授 (60270352)
宮城 弘樹 沖縄国際大学, 総合文化学部, 准教授 (70757418)
中村 和之 函館工業高等専門学校, 一般系, 特命教授 (80342434)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 貨幣考古学 / 東ユーラシア / 銭貨 / 文化財科学 / 歴史学 / 博物館学 |
研究実績の概要 |
今年度も新型コロナウイルスの影響により、考古学分野では計画していた海外調査が実施できず、国内での資料調査など方向性を変えて研究課題を進めることとなった。国内では櫻木晋一が九州の近世出土銭の情報収集を行い、加治木洪武通寳や叶手元祐通寳、慶長通寳など近世初期に鋳造した銭貨が出土している遺跡について、九州内の各県・市が刊行している発掘調査報告書を公共機関で閲覧し、出土銭貨に関する記載のチェックを継続している。また宮城弘樹が徳之島にて一括出土銭の調査を行った。宮城は台湾での出土事例についても、データベースの作成を進めている。 文化財科学分野は、順調に研究が進展している。小林淳哉は永楽通寳について、主成分元素、サイズ、質量など測定し、機械学習によるクラスター分析し2つのクラスターに分類できる可能性を明らかにした。松英達也は産地が明確な寛永通寳について、結晶状態および残留応力の差異について検討を行った。また元素組成を合わせた鋳造による銭貨の再現実験も行い、基本的なデータ収集を行った。小田寬貴は年代測定の精度について、正確な緑青のC14年代を得るには250℃以下の加熱による抽出が求められるが、収率が低下することを確認した。そのため極微量炭素試料のセメンタイト化による調製を試みたが、測定精度が低下するという新たな問題が判明している。今後も引き続き精度向上の研究を行っていく。また櫻木晋一は福岡市埋蔵文化財センターの機材を使用して、北九州市在住の鬼木家が所蔵している金貨41個、銀貨53個の蛍光X線分析を行った。菊池百里子もベトナムで出土した銅銭の化学分析を実施し、ベトナム、日本、中国で生産された近世の銭貨7枚について、鉛同位体分析及び金属組成分析を行った。 歴史文献については、各自資料収集および調査を進めている。博物館資料は明治大学博物館に収蔵されている遼中京で収集された銭貨の資料化を進めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述のように、新型コロナウイルスの影響により一部海外調査の計画を変更せざるを得なかったが、国内資料の調査研究に変更するなどし、新たな成果を得ていることから、おおむね順調に進展していると評価できよう。 さらに、これまでの研究成果を公開した、もしくはその準備を進めた点は、研究成果の社会還元の観点から特筆できよう。文化財科学分野において、松英達也はX線回折を用いた銅系青銅銭の分類に関する研究に関して,1件の査読無論文と1件のExtended abstractの掲載と4件の学会発表を行っている。また小林淳哉も鋳造地推定のためのクラスター分析の成果を学会にて発表し、青銅銭の分類に対する階層および非階層クラスター分析の適用について論文を投稿中である。さらに櫻木晋一は、北九州市鬼木家所蔵の金貨・銀貨について行った蛍光X線分析のデータ整理を進めており、2022年度に公表する予定である。中村和之も北海道知内町出土の涌元古銭の成分分析結果の入力数値の確認作業を進めており、公表の準備に入っている。 考古学分野では、菊池百里子が一括出土銭調査の成果を含む中近世ベトナム北部における調査研究の成果を書籍にまとめ、海外の出版社から刊行した。また菊池は米国の学会にてベトナムにおける出土銭貨の研究成果を英語で発表している。ほかに宮城弘樹は、沖縄を中心に出土銭貨の論考を複数まとめ投稿しており、2022年度に掲載される予定である。 博物館資料に関する分野では、三宅俊彦が明治大学博物館に収蔵されている銭貨を調査した。当該資料は島田正郎が戦中に遼中京遺跡にて収集した銭貨319枚であり、これまで未整理の状態であった。そのためデータ化を行い、初歩的な分析を加えて研究報告書を刊行した。収蔵資料を新たに活用していく上で、重要な成果と言える。 これらの成果をを総合すると、おおむね順調と総括できよう。
|
今後の研究の推進方策 |
現在の新型コロナウイルス感染症の状況を考えると、次年度以降も海外調査を行うことができるか不透明である。そのため、海外調査以外の研究課題をさらに重点的に進めるとともに、新しい角度からのアプローチも工夫していくことが必要となるであろう。 考古学分野での研究は、国内での出土銭調査を中心に進めていく。沖縄や九州、北海道での出土銭の資料化は順調に進んでおり今後も継続して行く予定である。国外については、ベトナムや中国、台湾での調査を計画しているが、前述の通り順調に行えるか見通せない。実施が難しい場合は、国内での資料調査やこれまでの研究成果を整理するなどして対応していきたい。 文化財科学の分野は引き続き、研究の蓄積を目指す。放射性炭素年代測定では測定精度の向上を図り、新しい技術を確立することを視野に、研究を継続する。クラスター分析および残留応力の研究では、銭貨の種類や鋳造地による技術的な差異を抽出することに成功しつつある。本科研での技術の確立を目指したい。成分分析についても九州や北海道での出土銭資料のデータが蓄積しつつある。今後は成果の公開へ向けた準備に取りかかれるものと期待される。 文献史学分野での資料収集は継続して進める。今後は考古学ほかの研究成果との比較や、貨幣史、対外交流史の研究成果をまとめる方向で進めて行きたい。博物館学分野では、収蔵資料の再調査や活用を視野に入れた資料化などに取り組む。英国など国外での調査を予定しているが、こちらも今後の状況を見ながら柔軟に対応できるように方向性を検討していきたい。 本研究課題は多くの分野をまたぐ学際的なものであるため、定期的に研究会を開催して情報共有を図ることが肝要である。特に中間取りまとめとなる3年目と最終年度となる5年目には、対面での研究会開催を計画したい。また同時に、研究成果の公表についても各研究分担者と連携して計画的に進めたい。
|