2021年度は、日本国内のフィールド調査の機会が限られるなか、これまでの鵜飼研究から導きだした動物利用の論理がほかの動物利用の現場でいかに展開できるのかという点を検討した編著『野生性と人類の論理―ポスト・ドメスティケーションを捉える4つの思考』(東京大学出版会)を刊行した。この図書の刊行を通して、鵜飼い漁の現場でみられる野生性の保持という志向性が鷹狩りのタカ類飼育や狩猟の猟犬飼育の現場においてもみられることを初めて明らかにした。この図書によって本研究で導きだした理論フレームの展開可能性を示した。 また、2021年度は、日本の鵜飼研究の成果にくわえ、中国での鵜飼やバルカン半島の北マケドニア共和国での鵜飼の研究成果も踏まえ、鵜飼が成りたつ原理や動物をドメスティケーション(家畜化)する動機、共通する動物利用の論理を明らかにした単著『鵜と人間―日本と中国、北マケドニアの鵜飼をめぐる鳥類民俗学』(東京大学出版会)を刊行した。これにより、日本における鵜飼の技術やそれを支える食文化を世界各地の事例のなかで位置づけた。 さらに、2022年度は、国内調査を本格的に再開し、各地の鵜飼で使用されている鵜舟や鵜飼用具、ウミウの捕獲道具といった物質文化の記録と整理をおこなった。くわえて、日本列島における鵜飼の歴史について、造形や文字資料、絵画資料でそれぞれ最古作例のものを確定したり、1500年にわたる鵜飼史の年表を作成したりした。こうした一連の成果は2023年度以降に編集する図書に反映させる予定である。
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