研究課題/領域番号 |
20H01475
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
山本 裕一 一橋大学, 経済研究所, 教授 (40855178)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | model misspecification / ベイズ学習 |
研究実績の概要 |
前年度に、「バイアスを持つ経済主体がどのような行動を取るか」について一般的な分析を行いJournal of Economic Theory誌に論文が掲載されたが、後になってこの論文に誤りがあることが発覚した。主定理の証明の中で、stochastic approximation for differential inclusionという比較的新しい数学のテクニック(数学の専門誌に掲載されているが、まだ教科書などでは扱われていない)を使ったのだが、実はその数学の定理自体に微細な誤りがあり、我々のコンテクストにおいてはその誤りが重大な問題を引き起こしていたのである。該当論文の著者たちに連絡を取ったところ、彼らもその間違いに最近気づいたようで、修正版を出版する予定とのことであった。その修正版の定理を用いた場合に我々の論文の結果がどう変わるかをまとめて、Journal of Economic Theory誌に発表した。 それから上記のプロジェクトとは独立して、「バイアスを持つ経済主体が複数いる場合に何が起こるか」についてのプロジェクトを開始した。特に、「一方の経済主体が(自信過剰などの)バイアスを持っており、その他の経済主体がそのバイアスに気づいているケース」と「その他の経済主体がそのバイアスに気づいていないケース」に注目して分析を行った。結果、自信過剰などのバイアスが周囲の人々の行動や厚生に与える影響は、そのバイアスが周囲の人々に知られているかどうかによって正反対なものになりうる、ということが分かった。例えば、寡占市場のモデルにおいて一社の需要に関する自信過剰さが増大した場合、競合他社がその自信過剰さに気づいているかどうかに依存して、社会厚生が増加したり減少したりする。この結果はEconometric Society European Meetingなどの学会で報告された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に発表した論文の修正は完了し、Journal of Economic Theory誌に掲載された。 また、「複数の経済主体がいるケース」という新しいプロジェクトについても一定の結果が出て、Econometric Society European Meetingなどの大きな学会で発表されている。
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今後の研究の推進方策 |
経済主体が一人しかいないケースについての分析は一区切りついたので、今後は複数の経済主体がいるケースについての分析を加速させてゆく予定である。経済主体が複数いる場合には、「自分の置かれた環境に関するバイアス」だけではなく「相手がどのようなバイアスを持っているかに関するバイアス」(これを「二次のバイアス」と呼ぶ)、「相手がそのような二次のバイアスを持っているかどうかに関するバイアス」など様々な種類のバイアスを考える必要が出てくる。当然分析は難しくなるが、その分興味深い結果が出てくる可能性も大きい。現在既にいくつかの興味深い応用例を発見している(例えば、一人の経済主体が自信過剰であるときに、相手がその自信過剰さに気づいているかどうかによって取る行動が大きく変わる例を発見した)が、これらの例をより深く分析し、一般的な環境において何が言えるかについて考える予定である。
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