研究課題/領域番号 |
20H01541
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
洞口 治夫 法政大学, 経営学部, 教授 (20209258)
|
研究分担者 |
河村 哲二 法政大学, 経済学部, 教授 (20147010)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | ディグローバリゼーション / 多国籍企業 / 国際経営戦略 / COVID-19 / 新型コロナウィルス感染拡大 / 外生的経済危機 / 群集生態学的アプローチ / 覇権 |
研究実績の概要 |
2020年度は5か年計画の研究プロジェクトの初年度にあたる。二人の共同研究者が個別に課題に取り組み、文献サーベイ、データ収集とその解析を行い、相互に意見交換を行うとともに研究成果を発表した。2020年度の学会報告は、河村が「経済理論学会」「世界資本主義フォーラム」での合計2回、洞口がAcademy of International Business(AIB)での1回であった。研究ノートの発表は洞口1本であった。 ディグローバリゼーションの警鐘として象徴的な役割を果たしていた米中貿易摩擦やブレクジットは、2020年初頭から顕在化した新型コロナウィルスの感染拡大によって、全世界的に、かつ、経済活動全般における具体的な現象に塗り替えられた。パンデミックによる外生的な経済危機が発生するときには、国際的な経済活動が切断され、ディグローバリゼーションは経済活動の各分野に直接的に反映される。その経済的な危機状態が長期化することで覇権国の経済力が弱まり、軍事費支出を捻出することができなくなって覇権が弱まる、という歴史的経路が生まれる、と考えられる。2020年、新型コロナウィルス(COVID-19)の感染拡大によるパンデミックがディグローバリゼーションを引き起こした。外務省のホームページによれば、2020年11月18日現在、「1. 日本からの渡航者や日本人に対して入国制限措置をとっている国・地域」は80、「2. 日本からの渡航者や日本人に対して入国後に行動制限措置をとっている国・地域」は106であった。その合計は186の国と地域になる。 新型コロナウィルス感染拡大への対応を誤った国は、大きな経済的損失を被り、国力を低下させ、覇権交代を引き起こす可能性がある。さらに、覇権国という単一の大国を想定しない場合には、国際レジームと呼ばれる複数の国々の連合体が国際政治に与える影響を弱める可能性もある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の学会報告は3回、研究ノート発表1本であった。さらに、2021年4月に公表される英語論文として、河村の1本があり“The Global Financial and Economic Crisis and Marxian Crisis Theory"をテーマとした。 洞口は、2021年度の学会発表のために英語論文を作成し、2020年度中には、その審査のために共同研究を含めて8本の論文を各学会に送付した。その内訳は、Academy of International Business(AIB)に共同研究を含めて3本の論文を送付し、単独研究1本が受理され、共同研究2本が却下された。Academy of Management(AOM)では単独研究1本が受理され、共同研究1本が却下された。Production and Operations Management Society(POMS)では共同研究1本が受理された。Strategic Management Society(SMS)には共同論文2本を提出し、2021年4月現在審査中である。 現段階では3本の英語論文について学会報告が受理されているが、その内容は、①世界44か国における新型コロナウィルス感染拡大とディグローバリゼーションの態様比較、②多国籍企業のコーポレート・ガバナンスと倫理的リーダーシップ、③ホンダと三菱重工業にみる航空機製造開発の比較制度分析、である。①については新型コロナウィルスの感染者数と死亡者数について人口比から要因分解を行い、政治体制の違いが感染者数と死亡者数の変化に影響を与えたことを推論する分析内容となっている。②は日産自動車の最高経営責任者であったカルロス・ゴーンのマネジメントについて、組織がカリスマ的リーダーを排除する論理について考察した。③では三菱重工業の航空機開発停止の要因を分析した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後、アメリカ、ブラジル、ロシア、イギリスをはじめとするキリスト教圏における新型コロナウィルスの感染拡大と経済的損失を日本のそれと比較する必要がある。この現象がアメリカという単一国の覇権衰退という現象を引き起こすのか、あるいは、中国への覇権交替を引き起こすのか、いくつかの歴史的経路を辿る可能性がある。アメリカを中心とした国際レジームの解体という現象に繋がるのかを判定するためには、経過を観察する必要がある。 理論的には次のような課題もある。すなわち、洞口は、群集生態学における共生の一形態である片利共生の概念によって集合知の創出パターンを研究してきたが、異種交配、偏害、寄生といった諸概念を応用し、異なる環境のもとで組織が群生する状態を分析したい。 応用可能な組織の具体例としては、多国籍企業の戦略的提携、国家の枠組みを超えた国際組織、国際レジームと称される国家間の協調行動がある。世界貿易機関(WTO)や世界保健機構(WHO)のような国際組織は、その例に該当する。片利共生を典型とする諸概念の相互関係を論理化できれば、ディグローバリゼーションのもとで最適立地を探索する多国籍企業の立地戦略についてのあるべき行動への指針を手に入れることも可能となり、また、その指針にもとづいた経済政策の立案も可能になるであろう。 外生的経済危機が過ぎ去ったのちには、それ以前の発展経路に収斂していくことも予想される。つまり、新型コロナウィルスに効果のあるワクチンが開発されれば、グローバル化は再開されるはずであり、医薬多国籍企業の行動と国家の防疫政策についても、今後、数年をかけて観察する必要がある。レジリエンスとは反発力や頑健性を意味するが、今後、貿易統計、直接投資統計が発表されていけば、新型コロナウィルス感染拡大のもとで、どの国が甚大な損害を被り、どの国が早期に回復したかを定量的に分析することも可能になる。
|