研究課題/領域番号 |
20H01627
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
駒込 武 京都大学, 教育学研究科, 教授 (80221977)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 植民地 / 台湾 / 日本 / 中国 / 学校 / 教育 |
研究実績の概要 |
昨年度は、新型コロナ感染症にかかわる出入国制限により、一昨年度に引き続いて予定していた台湾調査を断念せざるをえなかった。沖縄・奄美における調査も、感染の拡大状況をふまえて見送らざるを得なかった。さしあたり従来収集した資料を中心とした分析を進めると同時に、次のようにオンラインで研究会を開催した。 ・2021年4月24日 報告者:呉叡人(中央研究院台湾史研究所)/森川輝一(京都大学)/岡真理(京都大学) ・2021年10月23日 報告者:新田龍希(早稲田大学)/和泉司(豊橋技術科学大学) ・2022年1月22日 報告者:松葉隼(一橋大学大学院)/頼冠WEN(台湾師範大学台湾史研究所) これらの研究会を通じて、日本植民地支配下の台湾と、戦後国民党政権支配下の台湾において、官公庁や軍隊の重要なポストを外来の支配者がほぼ独占するというような意味で「植民地性」が継続的に存在しており、国民党による支配を再植民地化として表現できることを確認した。ただし、日本による植民地化当初の台湾と、国民党による再植民地化当初の台湾を比較した場合、後者ではすでに近代的な学校教育もかなりの程度普及していた上に「台湾人」というアイデンティティも広がっていたために、外来の支配者による植民地的な統治への反発もそれだけ大きくなったのではないかと論じた。 なお、植民地化をめぐる暴力と軍事的な暴力の関係性を考えるにあたって、ジェンダー秩序がそこにどのようにかかわってくるのか、植民支配者の求めるジェンダー秩序と、被支配者の求めるそれとのあいだには共犯的な関係があるのか、それとも後者には既存のジェンダー秩序を打ち破っていく力があるのかということが派生的な課題として浮かび上がった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
予定していた台湾調査、さらに沖縄・奄美調査を見送らざるを得なかったために、研究計画は当初予定していたよりも遅れている。 ただし、近年では台湾において資料のデジタルアーカイブ化とその公開が進んでいるためにある程度必要な資料を集めることは可能であるとともに、これまでに集めた資料を集中的に整理することとした。 研究成果の一部はすでに論文を書き終えて中文に翻訳の上、台湾で刊行される予定であるが、2021年度中には刊行にいたっていない。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては、「知識人」とは何かという問題をあらためて歴史的文脈に即して定義しつつ、「知識人」性の抑圧という観点から「植民地性」を定義することを試みる。 日本植民地支配下の台湾の場合、1900年代から1910年代にかけて全体としては教育機会の拡大と、専門職の増大が、知識人予備軍の裾野を徐々に広げていった。台湾総督府は領有当初から知識人の増加を懸念して、高度な教育機会を制限しようとしていが、1910年代になると日本内地への留学生が増大する傾向を抑えられなくなり、島内でも公立台中中学校も創設せざるをえない状況へと追い込まれたためである。1920年代になると台湾文化協会が創設され、《台湾民報》も創刊されて知識人の見解が公論化される状況が生じた。だが、台湾総督府の側では知識人が主導して切り拓く公共領域をできるかぎり縮小し、すべて国家というシステムに従属させようとした。このように植民地主義権力作用が働いていたからこそ、この磁場に抗して歩もうとした知識人は、社会主義の評価をめぐるイデオロギー対立や漢族と先住少数民族という立場の違いにもかかわらず、共通の命運に直面することになるということが仮説的見通しである。 今後の研究は、これまでに収集した資料によりこうした仮説的見通しを検証することが中核的な位置を占める。なお、今後の研究においては、男性知識人と女性知識人の違い、夫婦がともに教師であるなど知識人的な職業に生活の足場を置いている場合に直面しがちな問題についても整理していきたい。
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