研究実績の概要 |
モチーフの理論は数論幾何学,代数幾何学における重要な研究対象である.これに大きな進展をもたらしたのがVoevodsky(2002年フィールズ賞受賞)である.Voevodskyの理論ではアフィン直線にたいするホモトピー不変性が理論の基本的前提条件であった.しかしこれは応用上本質的な制約となる.代数幾何学の様々な基本的な不変量(例えば微分形式の層)はホモトピー不変性を満たさない.当該研究では,Voevodskyのモチーフ理論を拡張し,上記の不変量や現象をも包括する新たなモチーフの理論を構築するためにVoevodskyのモチーフの理論で中核的役割をはたす「ホモトピー不変性層」を拡張する「相互層」を新たに導入した.本年度の成果は相互層の分岐理論への応用である.相互層の理論により,正標数における階数1のエタール層の暴分岐や,標数0における階数1の可積分接続の非正則な特異点をモチーフ理論的に捉えることが可能になった.相互層Fと体k上分離的滑らかなスキームUにたいし, k上の分離的スキームXとその上のカルティエ因子DでU=X-Dなるものの組(X, D)をパラメーターとするF(U)上のフィルトレーションF(X,D)⊂F(U) が定義される.F(U)がUのアーベル基本群の指標全体のなす群の場合は,このフィルトレーションは加藤-松田が定義したArtin導手を復元する.kの標数が0でF(U)がU上の階数1の接続全体の為す群の場合は,このフィルトレーションは接続の不正則数を復元する.これらの結果によりこのフィルトレーションは「相互層Fにたいするモチーフ論的分岐フィルトレーション」と呼ばれる.さらにモチーフ論的分岐フィルトレーションにたいし Zariski-Nagata型の純粋性定理を示した.またAbbes-Saitoの分岐理論の方法により定義される別のフィルトレーションと一致することも示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
相互層の分岐理論への応用を与えることに成功した.これにより相互層の理論を使って,正標数における階数1のエタール層の暴分岐や,標数0における階数1の可積分接続の非正則な特異点をモチーフ理論的に捉えることが可能になった.相互層Fと体k上分離的滑らかなスキームUにたいし, k上の分離的スキームXとその上のカルティエ因子DでU=X-Dなるものの組(X, D)をパラメーターとするF(U)上のフィルトレーションF(X,D)⊂F(U) が定義される.F(U)がUのアーベル基本群の指標全体のなす群の場合は,このフィルトレーションは加藤-松田が定義したArtin導手を復元する.kの標数が0でF(U)がU上の階数1の接続全体の為す群の場合は,このフィルトレーションは接続の不正則数を復元する.これらの結果によりこのフィルトレーションは「相互層Fにたいするモチーフ論的分岐フィルトレーション」と呼ばれる.さらにモチーフ論的分岐フィルトレーションにたいし Zariski-Nagata型の純粋性定理を示した.またAbbes-Saitoの分岐理論の方法により定義される別のフィルトレーションと一致することも示した.
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今後の研究の推進方策 |
Voevodskyの理論を拡張するための別のアプローチとして,Binda, ParkとOstvaerによる対数的モチーフの三角圏 lDM の構築が進んでいる.今後の推進方策として,相互層の理論と対数的モチーフ理論との関係を調べることを目標とする.具体的な目標としては,相互層FのNisnevichコホモロジーが対数的モチーフの三角圏lDMにおいて表現可能であることを示すことである.相互層Fとk上の滑らかなスキームXにたいしそのNisnevichkホモロジーH^i (X,F) と Hom_(lDM ) (M(X,triv),Log(F)[i]) との間に自然な同型を構成する.ここで(X,triv)はXに自明な対数構造を与えた対数スキームで, Log(F)はFに付随して自然に定まるlDMの対象である.
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