研究課題/領域番号 |
20H01798
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
島田 伊知朗 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 教授 (10235616)
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研究分担者 |
木村 俊一 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 教授 (10284150)
金銅 誠之 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 名誉教授 (50186847)
高橋 宣能 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 准教授 (60301298)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | モノドロミー / ザリスキ多重対 / K3曲面 / 自己同型 / モーデル・ヴェイユ格子 / ネロン・セヴェリ格子 |
研究実績の概要 |
非特異平面4次曲線は 28 本の bitangents をもつことが古典的に知られている.平面4次曲線を動かした時のこれらの bitangents へのモノドロミー作用は Harris (1979) によって決定されている.非特異平面4次曲線で分岐する射影平面の巡回4次被覆として得られるK3曲面を考えることにより,この平面4次曲線に4点で接する2次曲線(4-tangent conics) へのモノドロミー作用を決定し,さらに,平面4次曲線といくつかのbitangents およびいくつかの4-tangent conics の合併集合として得られる可約平面曲線を考えることにより,高い次数の平面曲線のザリスキ多重対を構成した.この例では,多重対を構成する平面曲線の個数は漸近的に平面曲線の次数の62 乗のオーダーで増加していく. 切断を持つ楕円K3曲面のモーデル・ヴェイユ群はその楕円 K3曲面の自己同型群に埋め込め,したがってこの楕円 K3曲面のネロン・セヴェリ格子に作用する.一方,ネロン・セヴェリ格子からモーデル・ヴェイユ群への自然な全射準同型が存在する.したがって,ネロン・セヴェリ格子から自分自身への作用が得られる.この作用を計算するアルゴリズムを書き,計算機に実装した.このアルゴリズムにおいては,モーデル・ヴェイユ群の良い生成系を得るためにモーデル・ヴェイユ格子の構造が有効に使われた.このアルゴリズムの応用として,2次曲線上にある6個の通常尖点を持つ射影平面6次曲線で分岐する2重被覆平面の最小特異点解消として得られるK3曲面の自己同型群を決定した.このK3曲面はザリスキペアに関して古典的に深く研究されてきた由緒正しいK3曲面である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
K3曲面やエンリケス曲面の自己同型群の群構造の決定に関するいくつかの汎用的なアルゴリズムを整備することができた.特に与えられた群の元の有限集合がその群の生成系をなすかどうかを判定するために,格子の自己同型群の元 g と 元の有限集合 S が与えられたとき,g が S の元の語として書けるかどうかを探索する効率的な方法を開発し,計算機に実装し,いくつかの例についてテストをおこなった.また,K3 曲面の切断を持つ楕円ファイブレションやそのモーデル・ヴェイユ群から得られる自己同型を系統的に見つけていく方法を開発し,計算機に実装した.これらは K3曲面やエンリケス曲面の自己同型群の研究に非常に有用であると思われる.これらの方法は理論的には新しいものではないが,計算機の性能(速さとメモリー量)の向上により,実用的となったものである.今後も計算機の性能の発展に合わせて,方法をアップデートしていく必要がある. さらにK3曲面の計算のための道具が非常に多岐にわたるようになってきたため,これらの方法に関する総合的なサマリーをプレプリント Mordell-Weil groups and automorphism groups of elliptic K3 surfaces(To appear in Revista Matematica Iberoamericana) に記述した. しかしながらマシュームーンシャインなどに関するK3曲面と物理学の関連についての課題においては,バックグランドとなる物理学の知識の不足のために,進展を得ることができなかった.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き多くの具体的なK3曲面およびエンリケス曲面の自己同型群とネフ錐について計算を続け,知見を蓄積する.さらに計算対象を,(正標数の場合を含む)Coble 曲面,さらには高次元の正則シンプレクティック多様体へと広げることを目指す. 現在の方法はK3曲面(エンリケス曲面や Coble 曲面の場合はその二重被覆としてあらわれるK3曲面)のネロン・セヴェリ格子を引数として受け取り,ここから出発して自己同型群とネフ錐を調べるものである.しかしながらK3曲面がたとえば方程式で与えられた時にそのネロン・セヴェリ格子を計算することは一般的には容易ではない.この問題に関して,近年,K3曲面の周期を数値的な多重積分によって近似的に計算し,Lenstra--Lenstra--Lovasz による格子基底簡約アルゴリズムを用いて,ネロン・セヴェリ格子を高い精度で推定する方法が,計算機の性能の向上により実用化されつつある.この方法はあくまで近似的・発見的なものであるが実用上は十分に強力であり,van Luijkによる正標数への還元を用いる方法で厳密な証明を得ることも可能である.この方法のためにはK3曲面のさまざまな射影モデルに対して,その第2ホモロジー群の基底となる位相的サイクルを明示的に記述する必要がある.この方面の研究も始める.
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