研究課題/領域番号 |
20H01805
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
泉 正己 京都大学, 理学研究科, 教授 (80232362)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | フュージョン圏 / Cuntz 環 / 部分因子環 |
研究実績の概要 |
モジュラーテンソル圏は、共形場理論、量子群の表現論、低次元トポロジーや、作用素環の理論に登場する近年注目を集めている代数系であるが、フュージョン圏の特別な場合であり、一般のフュージョン圏の Drinfeld 中心はモジュラーテンソル圏となる。従って、新たなフュージョン圏の構成は、新たなモジュラーテンソル圏の構成の第一歩となる。代表者はこれまでの研究で、near-group 圏と呼ばれる圏とその一般化である2次圏の分類に取り組んできた。2次圏とは、単純な対象が有限群の元以外に本質的に1つのみ存在するフュージョン圏であり、その中でも重要なのは、一般化 Haagerup 圏と呼ばれる族である。このれらの2次圏は、Cuntz 環の自己準同型を構成することにより得られたが、それらの自己準同型を使って2次圏の tube 代数を計算することが可能であり、Drinfeld 中心のモジュラーデータを計算することができた。 ニューサウスウェールズ大学の Pinhas Grossman 准教授とインディアナ大学の Noah Snyder 准教授との共同で、多くの一般化 Haagerup 圏とその外部自己同型からなる群に対して、群拡大を決定し、結果的に多くの新たなフュージョン圏を構成することに成功した。フュージョン圏の群拡大は、Etingof-Nikshych-Ostrik の結果により、原理的にはホモトピー論的な情報により決定されることが分かっているが、そこに現れる様々な障害を表すコホモロジーの元やパラメーターを具体的に計算することはほとんど不可能であると専門家の間で信じられていた。しかし、我々の Cuntz 環の自己準同型はフュージョン圏のすべての情報を持っていることから、群拡大を完全に決定でき、ENO の研究に現れる様々な量を具体的に決定することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の柱の一つは、新たなモジュラーテンソル圏の構成であり、その一つの方法は、新たなフュージョン圏を構成し、その Drinfeld 中心の計算を行うことである。今回の研究では、新たなフュージョン圏を構成法として、既知のフュージョン圏の群拡大を決定するという当初計画していなかった方法を実行することができた。一般化 Haagerup 圏に対してこのような強い結果が得られたことは予想外であった。具体的には、(1)すべての一般化 Haagrup 圏の外部自己同型群 Z/2Z による拡大の決定、(2) Asaeda-Haagerup 圏の外部自己同型群 Z/2Z×Z/2Z による拡大決定、(3)群Z/2Z×Z/2Z に付随する一般化 Haagerup 圏の外部自己同型群 Z/2Z×Z/2Z と4次交代群による拡大の決定、をすべて実行した。特に(2)や(3)のように巡回群以外の群でも拡大が決定できたことは、共同研究者も全く予想していなかったことである。これまで Etingof-Nikshych-Ostrik のフュージョン圏の拡大の理論に現れるパラメーターを具体例に即して説明できていたのは、Tambara-Yamagami 圏についてのみであったが、今回それよりもはるかに複雑なフュージョン圏に対してそれを実行できたことは大きな成果である。 本研究のもう一つの柱である分類可能な C* 環への群作用の研究については、新型コロナウィルス感染症の影響で当初予定していた研究会が開催できず、ルーヴェン・カトリック大学の Gabor Szabo 准教授などの専門家を招聘できなかったため、当該研究課題についての十分な議論ができなかった。しかし上述のようにもう一つの研究で当初予想していなかった進展があったので、全体としては本研究はほぼ順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今回の研究で構成した一般化 Haagerup 圏の拡大により得られるフュージョン圏は、具体的なデータにより与えているので、その tube 代数の計算はコンピューターを使えば比較的容易に実行できると考えられる。この計算を実行して Drinfeld 中心を決定し、新たなモジュラーデータを計算する。このようにして得られたモジュラーデータは、これまでに知られているものとは違うタイプのものであることが期待される。 これまでの Grossman 准教授との2次圏の共同研究で、有限可換群の対から構成される新たな2次圏のクラスに対して、構造定数の満たす方程式を具体的に書き下すことができた。今後計算機を使った組織的な計算を実行して、この方程式の解を多くの有限可換群の対に対して構成する。更に得られた解を使って tube 代数の構造を決定し、Drinfeld 中心のモジュラーデータを計算する。これまでの予備的な計算で、このようにして得られるモジュラーデータが、以前の研究で得た潜在的モジュラーデータの実現である可能性は高く、これを示すことができれば以前の研究で提出した予想の解決となる。 本研究課題のもう一つの柱である、分類可能なC*環への群作用の分類に関して、これまでの研究で、強自己吸収的 Kirchberg 環への G-kernel の新たな不変量を構成することができた。今後この不変量の実現問題と、この不変量を使った G-kernel の分類問題に取り組む。これまで行ってきた Poly-Z 群に関する計算から、期待される分類定理の主張が予想できるが、これまでの方法では予想が証明できる群のクラスは限定的である。より一般的な分類定理を得るには、新たな不変量の代数トポロジー的な解釈が必要である。これは多くの分野と関係し得る魅力的かつ野心的な課題である。
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