研究課題/領域番号 |
20H01842
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
竹内 宏光 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 講師 (10587760)
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研究期間 (年度) |
2021-03-01 – 2025-03-31
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キーワード | 超流動 / ボース・アインシュタイン凝縮 / 位相欠陥 / 自発的対称性の破れ / 量子渦 / ドメイン壁 |
研究実績の概要 |
本年度は,磁性超流体における位相欠陥の理論的研究を実施し、学術論文5編(単著3編,共著2編)とプレスリリース3件を発表しました。 (1)自発的対称性の破れによって生じた謎の物体を解明:最近実験で観測された自発的対称性の破れ(Spontaneous Symmetry Breaking、以下SSB)の非平衡時間発展によって生み出される謎の位相欠陥の正体を理論的に突き止めました。この系で実現するSSBは古くからよく知られる等方的超伝導体や超流動4Heで起こるSSBと同様であるため、量子渦と呼ばれる流体中の渦のような性質を持つ位相欠陥が生じると予想されます。ところが、実験で観測された位相欠陥はそれとは似つかない構造をもち、その物理的性質も謎に包まれていました。本研究では飛行機の翼の揚力計算に用いられるジューコフスキー変換を量子渦に適用し、この謎の位相欠陥の最も安定な状態が量子楕円渦という新奇な構造であることを示しました。 (2)2種類の超流動の界面模様の形成機構を解明:流体の粘性が消失した超流動体を想定して、流体力学において基本的な不安定現象である「ケルビン・ヘルムホルツ不安定性」の解析を行い、流体の速度と界面の厚さに依存して様々な界面模様が形成されることを世界で初めて明らかにしました。また、その模様が、「ウェーバー数」と呼ばれる普遍的な定数によって分類できることを明らかにしました。 (3)新種のスキルミオンを発見:磁性量子流体におけるスピン流と磁壁の相互作用によって引き起こされる量子ケルビン・ヘルムホルツ不安定性の結果、新種の磁気スキルミオンが生じることを発見しました。通常、孤立したスキルミオンのトポロジカル量子数は整数ですが、今回発見された新種のスキルミオンはその内部にスピン特異点を自発的に形成することで半整数の量子数をもつ非対称な織目構造を保持していることがわかりました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、磁性超流体における位相欠陥の基本的な性質を明らかにしつつ、その内部構造の相図を海外の共同研究者と協力して網羅的に解明する予定でした。しかし、新型肺炎が世界的流行しているため海外への渡航は困難になりました。そのため、国内での研究活動に専念すると共に研究対象の的を絞りました。この判断が功を奏し、位相欠陥についてより深い理解が得られたと共に、新種の位相欠陥を2種類も発見することができました。発表した5編の論文の内の3編は、米国物理学会のフラッグシップであるPhysical Review Lettersを含む単著の論文です。該当年度は2,3編の共著論文の発表を想定していたため、本年度の成果は想定を大きく上回ったと言えます。それに伴いプレスリリースを積極的に実施し、国内・国外のメディアでも研究を紹介する記事が数多く取り扱われました。
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今後の研究の推進方策 |
別の科研費(国際共同研究加速基金)を利用して、2022年度は約1年間の長期海外渡航を実施するため、本研究は中断申請を行っています。この渡航が終了次第、本科研費の研究を再開する予定です。ところが、渡航先のベルギーでは新型肺炎に関する比較的厳しい規制が敷かれているため、現在もまだ渡航を開始できていません。そのため、ベルギーへの渡航を開始するまでの間、本研究を部分的に遂行します。1年後の再開と同時に、本科研費を利用してポスドクを雇用する計画ですが、渡航開始が大幅に延期することになる場合は、ポスドクの雇用時期も含めて計画の大幅に見直す必要があります。 いずれにせよ、研究を再開できる頃には海外渡航も比較的容易に行えるようになることが予想されるため、当初計画していた国際共同研究を再開し、研究の的を絞ったことで取りこぼした課題を海外の共同研究者と共同で実施する。
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備考 |
(1)は研究者個人のホームページ、(2)は所属大学の部局による研究紹介の記事、(3)、(4)、(5)は所属大学から発表されたプレスリリースの紹介記事。
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