研究課題
強相関電子系の電気伝導には、非線形伝導や電気抵抗スイッチング現象、電荷密度波の並進運動など、古典的な輸送現象の枠組みを超えた新奇な現象が数多く観測されている。しかし、それらの機構は明らかになっていない。その中で、ルテニウム酸化物は小さい臨界電場で絶縁体-金属転移を示し、直流電場による物性を示し注目を集めてきた。本研究課題では、強相関電子状態に電流を流した非平衡電子状態の知見を深めることを目的として、電場印加下の電子状態を、光電子分光により観測し、新奇な伝導現象の解明を試みる。令和3年度は光電子分光用の真空クライオスタットを購入し、試料ホルダなどの設計を進めた。金属絶縁体転移を起こすCa2-xSrxRuO4に観測された表面金属相については、第一原理計算を行い、計算結果と観測結果を比較検討した。さらに準粒子構造を詳細に調べ、電子-格子相互作用がSr2RuO4に比べて強いことを明らかにした。関連物質としてRuナノシートの電子構造についての研究も行い、基板による電子状態の違いについても明らかにした。また、励起子絶縁体候補物質であるTa2NiSe5について共鳴角度分解光電子分光を行い、Ni 3p-3dの共鳴において、スペクトル強度の温度依存性が特異な振る舞いをすることを見出した。さらにスペクトル強度の偏光依存性からTa2NiSe5の準粒子バンドの軌道成分を明らかにした。共鳴スペクトルに現れた特徴的な温度変化は、Niに由来するバンドとTaに由来するバンドの間で形成された励起子の凝縮と関連していると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
予定されていたクライオスタットの導入と同時に、試料ホルダなどの設計を進めることができた。非線形伝導を示す強相関電子系の電子状態において、電子-格子相互作用や励起子凝縮を示唆する結果が得られ、電子構造の理解が進展している。
電荷密度波を起こす強相関物質の電流電圧特性などの測定を開始し、相図を作成する。Ca2-xSrxRuO4の電子構造については、電子構造の組成依存性の研究を進める。特に表面とバルクの分離を硬X線光電子分光を用いて行う。Ta2NiSe5の準粒子構造については、共鳴角度分解光電子分光のスペクトル形状と励起子凝縮の電子状態の理論モデルとの比較検討を進める。
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