研究課題
強相関電子系の電気伝導には、非線形伝導や電気抵抗スイッチング現象、電荷密度波の並進運動など、古典的な輸送現象の枠組みを超えた新奇な現象が数多く観測されている。しかし、それらの機構は明らかになっていない。その中で、ルテニウム酸化物は小さい臨界電場で絶縁体-金属転移を示し、直流電場による物性を示し注目を集めてきた。本研究課題では、強相関電子状態に電流を流した非平衡電子状態の知見を深めることを目的として、電場印加下の電子状態を光電子分光により観測し、新奇な伝導現象の解明を試みる。非線形伝導の特徴を持つ強相関電子系について光電子分光による電子状態の観測を行った。金属絶縁体転移を起こすルテニウム酸化物Ca3Ru2-xTixO7の角度分解光電子分光において、転移温度以下では折りたたまれた2回対称のフェルミ面が観測された。低温の絶縁体相においてもフェルミ準位を横切る分散が観測されたが、フェルミ面の面積は非常に小さいことが分った。新奇な電子-格子相互作用を持つ物質として、籠状構造を持つBaIr2Ge7のマイクロフォーカス角度分解光電子分光を行い、電子構造のドメインが存在することを明らかにした。これらのドメインは2種類の籠構造に由来すると考えられる。電子-格子相互作用が強い強相関電子系の物質として、銅酸化物高温超伝導体の硬X線光電子分光を行った。その結果、内殻スペクトルのシフト量から化学ポテンシャルの組成依存性を精度良く求めることに成功した。電子比熱係数などの熱力学量と比較し、擬ギャップ相の電子状態の特徴について考察した。
2: おおむね順調に進展している
非線形伝導の特徴を持つ強相関電子系の新奇な電子状態について、ルテニウム酸化物をはじめ、籠状物質、銅酸化物高温超伝導体などで、新たな知見が得られている。強相関電子系における電子格子相互作用が強い物質の電子構造の理解が進展している。
ルテニウム酸化物の電子構造については、電場下で測定されたスペクトルおよび角度分解光電子分光の結果の解釈を進める。ルテニウム酸化物以外の電子格子相互作用の強い強相関電子系についても、引き続き、準粒子構造について特徴を調べ、格子振動が果たす役割について理解を深める。
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Physical Review Materials
巻: 7 ページ: 124601
10.1103/PhysRevMaterials.7.124601