研究課題
近年,完新世の気候変動は,人間の移動と発達に大きな影響を与えたと考えられている.日本では,中石器時代の文明は約16,000年前(縄文時代)に始まった.そして,3000年前頃,水稲栽培の技術を持った人々が中国本土から日本列島に移住し弥生時代となった.本研究では,水稲栽培の発祥の地である中国の浙江沿岸の沿岸から復元された古水温と比較するため,博多湾の堆積物より今回新たに古温度変化を復元した.アルケノンから復元した水温は18.7℃から21.8℃まで変動し,数百年から数千年のスケールで変動した.過去7,000年間の温度は数百年から数千年の規模で変動し,両者で類似していた.この中で約300年前と約4,200年前の寒冷イベントは,小氷期と4.2 kaイベントに対応していた.この「4200年前イベント」は, 2018年7月に国際年代層序表に関する国際層序委員会により完新世の中期/後期境界として正式に認定された.興味深いことに,場所によって乾燥,洪水,寒冷など特徴が異なっているものの,気候の異常が報告された地域はほぼ温帯域に位置していた.筆者たちは,私達の研究地域の寒冷化はアジアモンスーンや偏西風などの変調が原因と考えている.さらに,浙江海岸では,約4,200年前の寒冷イベントに伴い,沿岸湧昇が強化されたために寒冷化が増幅されたと示唆された.現代日本人の半分程度の遺伝子をもたらした祖先である弥生・渡来人は,4200年前は中国に暮らしていた.水稲栽培が始まった長江下流域では,文明が途絶えるほどの厳しい寒冷化を経験した.現代日本人の遺伝子の中に,当時中国に生活していた日本人の祖先の遺伝子を特定できる.この遺伝子のグループについて,過去の人口変動を現代人の遺伝子の解析から推定できる.このデータに基づくと,水稲栽培を生業としていた人びとの人口が大きく減少したことが示唆される.
2: おおむね順調に進展している
コロナ禍で2020年度の野外調査などが遅れていたが,その後は年後ごとに1年づれて予定どおり進捗している.
科学的成果については,国際誌に英文論文として発表することを第一としてきた.本テーマは,日本人に関係したテーマなので,成果の情報発信という観点より,日本語で執筆された本の出版についても可能性をさぐりたい.
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件)
Quaternary Science Reviews
巻: 230 ページ: 106-120
10.1016/j.quascirev.2019.106160
Organic Geochemistry, Elsevier
巻: 142 ページ: 103980
10.1016/j.orggeochem.2020.103980
Aquatic Geochemistry
巻: 26 ページ: 137-159
10.1007/s10498-020-09374-y