研究課題
本研究計画で購入する物品の中でも最高額となるイオンクロマトグラフ分析の選定・購入・導入を本年度は主に実施した。本研究を遂行するにあたって塩化物イオン濃度はなくてはならないものであるが,これまで分析に利用してきた共同利用のイオンクロマトグラフ装置が老朽化によって利用停止となったことが,本研究計画でイオンクロマト分析装置を購入した主たる理由である。今回の購入に際して,様々なイオンクロマトグラフ分析装置の性能を精査・比較した。その結果,M社で販売するイオンクロマトグラフ装置が他よりおおよそ1桁ほど低濃度の臭化物イオン濃度も定量できることが判明した。臭化物イオンの濃度は,本研究目的である『スラブ起源流体の解明』において強力な指標となる可能性があったため,M社のイオンクロマト分析装置を選定した。このM社のイオンクロマト分析装置が他の装置に比べて約1桁程度低い臭化物イオン濃度を高精度で定量できるのは,臭化物イオンの高感度化とノイズを低減をするCO2サプレッサーが装備されているからである。しかし,CO2サプレッサーは用いると検量線の直線性が失われるため,他のイオンクロマトグラフ装置ほど簡便には分析することができない。そこで,購入後に基礎実験を実施し,塩化物イオンと臭化物イオンを含めて,湧水中の陰イオン濃度を3%以内の誤差で測定できるシステムを構築した。調査・試料採取については,本年度は四国(愛媛・高知)・紀伊半島西部・神奈川県西部で採水を行った。特に愛媛県の四国中央構造線付近の湧水は,2ヶ月ごとに採水した。紀伊半島西部と神奈川県西部に関しては,事前に文献調査を行い,各地域の状況を把握した上でテストとなる試料採取地点を選定し,これらの分析結果を基にさらに試料数を増やす予定である。
2: おおむね順調に進展している
分析装置導入や調査において,コロナの影響を多少を受けたが,概ね予定していた研究計画を遂行した。以下に本年度実施した(1)分析装置の購入と立ち上げ,(2)試料採取・分析に分けて理由を述べる。(1)分析装置の購入と立ち上げ本年度の主要な課題であった高額分析装置となるイオンクロマトグラフに関して,本研究計画推進に大きく貢献できる機種を精査した。精査の結果,特に臭素が他の機種より1桁程度低くても分析できる機種を選定した。臭素はハロゲンの1つであり,本研究計画に大きく貢献しうる指標であるが,これまで用いてきたイオンクロマトグラフ(高知大学共同利用装置・故障により廃棄済)では測定できなった。一方,これまでに利用してきたイオンクロマトグラフに比べると,陰イオン時に臭素をより高感度に検出するCO2サプレッサーでは,他の元素濃度測定時に検量線が直線ではなくなる問題が生じた。加えて,導入した装置では,陽イオン分析ではノンサプレスト式であること,金額的に従来の5倍程度の試料量が必要となるオートサンプラーを採用したことで,使用する標準物質の変更と検量方法の見直しのため基礎データの採取から行った末に,臭素を含めた陰イオンと陽イオンの主成分濃度の精度・確度を含めて3%の誤差で測定可能となった。(2)試料採取・分析四国(愛媛・高知)・紀伊半島西部・神奈川県西部で採水を行った。特に愛媛県の四国中央構造線付近の湧水は,2ヶ月ごとに採水した。紀伊半島西部と神奈川県西部に関しては,事前に文献調査を行い,各地域の状況を把握した上でテストとなる試料採取地点を選定し,これらの分析結果を基にさらに試料数を増やす予定である。試料採取や分析には,2020年10月より当該研究室に配属となった3名の大学3年生が主体的に行えるように,高知の湧水採水に同行して採水方法を教えた。
2020年度に購入したイオンクロマトグラフ分析装置は,当初目的の塩化物イオン濃度の測定に加えて,これまで低濃度であるため測定できていなかった臭化物イオン濃度を3%の誤差と高精度で測定できるようになった。そこで,本研究計画で採取していく湧水試料はもちろんだが,これまで採取して本研究計画にあげた分析を既に終えていた湧水試料に関しても2020年度に購入したイオンクロマトグラフ分析装置で臭化物イオンの定量を行う。既に測定したLiやSrといった同位体指標と臭化物イオンを含む元素比との間の関係性について精査を行い,新しい深部流体の研究指標として可能性を模索することを試みたい。本研究計画が成功する鍵の1つは地球物理学的知見へのアクセスである。論文等を読んで,これまで得られた調査地域の地球物理学的知見を学んでおくことはもちろん,現在進行している地球物理学的調査研究成果についても,積極的に地球物理学者と情報交換していきたい。本研究計画成功へのもう1つの鍵は,優秀な学生の参加である。本年度の研究室配属では最大定員となる3名の大学3年生に本研究計画に興味を持つ学生に参加していただけることとなった。学部生の間は,採水試料の選定や化学分析技術から得られた分析結果の見方などが未熟であるが,時間をかけて教育指導することこそが,長い目で見た本研究計画の大きな進展につながると信ずる。現時点では3名全て大学院進学希望であるため,熱意を保てるように教育・指導していきたい。2021年度中には学生が学会発表できるレベルまでの指導を目標としたい。また,2021年10月の新3年生の研究室配属でも,さらに本研究計画に関わることを希望する優秀な学生に来ていただけるように,機会があれば本研究計画の魅力をアピールしていきたい。
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Frontiers in Earth Science
巻: 8 ページ: -
10.3389/feart.2020.611010
GSA Bulletin
巻: 132 ページ: 2055~2066
10.1130/B35403.1