研究課題
中島出版から出版された大学授業用の教科書「4次元統合黒潮圏資源学」の1-4章にて「非伝統的地熱流体科学」と題した本研究計画とその基本となる事柄をまとめて2022年度に執筆した。また,近畿地方と熊本の温泉水の地球化学に関する2本の論文とタングステン鉱床の鉱液に関する1本の論文を国際誌(査読有)にて報告した。2020年度に購入したイオンクロマトグラフ分析装置は,他社装置に比べて1桁ほど低い濃度でも臭化物イオン濃度も定量できることが2020年度実施した基礎実験の結果で判明したことは昨年度の研究実績で記載している。そこで,2021年度は,これまで測定していた湧水試料の臭化物イオン濃度の定量を2020年度に購入したイオンクロマトグラフ分析装置で行った。新しく分析した臭化物イオン濃度を既に測定した前弧域の温泉等の断層湧水のLiやSrといった同位体指標との関連を現在解析中である。2021年度は新規に岡山県,京都府,兵庫県東部で採水調査を行った。2020年度の採取した四国中央構造線(愛媛・徳島)と紀伊半島西部と神奈川県西部と2021年度に採取した岡山県の温泉を含む断層湧水のLi同位体比の測定を2021年度に実施した。残るSr同位体比は2022年度中に分析予定である。2021年度までに得られたデータから,四国中央構造線(愛媛・徳島)と紀伊半島西部と神奈川県西部に関してスラブ起源流体の寄与が見えてきたが,神奈川県西部は四国中央構造線(愛媛・徳島)と紀伊半島西部とLiシステムの状況が大きく異なる。LiとSrの同位体比を測定できた試料から得られた知見は2022年度中の学会で発表予定である。また,一部は成果を論文としてとりまとめて2022年度中に査読付き雑誌に投稿を目指す。
2: おおむね順調に進展している
温泉水試料を用いた地殻流体研究の成果を本年度は2本発表した。COVID-19による移動や実験室利用への制限は2022年度も発生し,野外調査や化学分析の進展に影響が発生した。しかし,それにもまして,2021年度の3名に加えて, 2022年度も3名の優秀な学生が本研究計画に参画した結果,野外調査と化学分析を着実に進めることができた。2021年度までに調査を実施した3地点に関しては,2022年度にSr同位体比の測定を実施すれば,一通りのデータセットがそろうため学会で発表した後に,査読付きの国際誌に投稿する論文を作成できる状態である。このように,野外調査・採水,化学分析,そして,成果発表に至るまで,予定通りの進捗状況である。
本研究計画の要は研究に関わる学生である。2021年度の4年生の3名全ては大学院修士課程に進学し,引き続いて2022年度から2年間は本研究計画に関わってもらえることとなった。また,2021年度にも定員上限となる3名の3年生に当研究計画に興味をもってもらえ研究室に来てもらえた。加えて,2022年度から私費留学生が博士過程に入学した。このように確実に本研究計画に携わる学生は増えてきており,今後の研究の大きな進捗が見込まれる。さらに研究を高度に展開するために,今後は学生が単にPIの指示を受けて関わるのではなく,本研究計画に自発的に関わろうとする環境の育成を目指したい。これまでは適切な時期に野外調査と化学分析を実際に体験してもらうことは実施していたが,新しい試みとして,同様の研究目的であるが研究手法が異なる他大学のいくつかの研究室と2ヶ月に1回の頻度で合同オンラインセミナーを2021年10月から開始した。特に発表と同じ時間の質疑に十分に時間を取ることで学生は主体的に研究に関わるようになってきたと強く感じる。2022年度からは,オンラインだけではなく,実際に対面で他大学の同様の研究目的を有する学生と議論する場も設けていきたい。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件) 備考 (2件)
Geochemical Journal
巻: 55 ページ: 241-250
10.2343/geochemj.2.0633
巻: 55 ページ: 289-300
10.2343/geochemj.2.0637
Minerals
巻: 11 ページ: -
10.3390/min11070765
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