研究課題
海洋地殻とマントルに水がどれくらい深く浸透し,どれくらいの量が地下深部の岩石中に蓄えられるのか,その実態を明らかにすることを目的に研究を行なった。オマーンオフィオライトは,中央海嶺で生じた海洋プレートが沈み込むプレートに衝上して形成された海洋プレートの化石である。オマーンオフィオライトの下面では形成まもない高温のマントルと低温の沈み込むスラブの上面が直接接し,接触変成作用が生じた。沈み込むスラブからもたらされた水は熱水となり,形成まもないマントルウェッジへ侵入し,マントルかんらん岩のフラックス溶融を引き起こしたことが推定されている。オマーンオフィオライトのマントルセクションは,広域にわたり様々な程度に蛇紋岩化作用を被っているため,本研究はそれを利用し,最上部マントルの蛇紋岩化の履歴と規模を明らかにすることを目指した。初年度に当たる2020年度は,新型コロナの感染が全世界に広まったため,オマーンオフィオライトの現地調査を実施することはできなかった。そこで,新潟大学に所蔵されている既存の岩石試料を用いて,オマーンオフィオライトのマントルセクションのかんらん岩に含まれる変質鉱物を記載・同定し,その存在形態の実態を検討した。研究手法として, (1) 偏光顕微鏡観察,(2) SEM-EDSを用いた反射像観察と組成分析,(3) レーザーラマン分光分析計を用いた鉱物種の同定をおこなった結果,オマーンオフィオライトのマントルセクションには従来報告されていない規模で,高温型の蛇紋石であるアンチゴライトが存在する事実を明らかにすることに成功した。アンチゴライトはかんらん岩の中に脈状に出現することから,海洋地殻と反応した熱水がさらに深部の海洋マントル最上部に到達し,亀裂に沿ってかんらん岩に浸透し,冷却しつつある海洋マントルの変質作用を引き起こした可能性が考えられる。
2: おおむね順調に進展している
オマーンオフィオライトのマントルセクションは場所によって様々な程度に蛇紋岩化作用を被ったかんらん岩を利用し,最上部マントルの蛇紋岩化の履歴と規模を明らかにするため,オマーンオフィオライトの北部に位置するフィズ岩体とサラヒ岩体のマントルセクションから広域的に採取された既存の岩石試料を用いて研究を開始した。オマーンオフィオライトのマントルセクションのかんらん岩の薄片の偏光顕微鏡下観察とEPMAおよびSEM-EDSを用いた定量分析,反射電子像観察および元素濃度のマッピングを行った。さらにラマン分光高度計を用いた変質鉱物の同定も行った。既存の岩石試料は,オマーンオフィオライトの高温時の火成作用を検討する目的で,露頭ではもっとも変質の少ない岩石として採取されたものである。そのようなバイアスのもとで採取されているが,本研究の目的である海洋プレートの変質の初期段階,すなわち,水がどのようにマントルに浸透していくのか調べる上で好都合なことが明らかになった。既存の岩石の観察と記載による変質鉱物の同定と産状の記載が順調に進んだことで,今後は具体的な水の浸透過程に検討を進めていくことと,現地調査を行ない,マクロな産状を明らかにすることが課題である。
オマーンオフィオライトのマントルセクションにおける変質鉱物の種類と産状をこれまでの研究で明らかにすることができたので,今後は,さらに試料数を拡大してより精密な分布を明らかにすることを進めていく。同時に,以下の課題に取り組む。(1) EBSDによる変質鉱物のファブリック解析を行い,蛇紋石の結晶方位の特徴を検討する。(2) Perple_XやSUPCRTなどのソフトウェアを使った熱力学的解析により,変質鉱物の形成環境と温度圧力を推定する。(3) 蛇紋岩の酸素,炭素,水素,鉛の各安定同位体組成分析を測定し,蛇紋岩を形成した水の起源を明らかにする。その際に,海洋マントルの深さ方向(地殻-マントル境界から最下部の基底スラストまで)および海嶺セグメントの中心から末端にかけて三次元的な空間の中で蛇紋岩の存在形態と形成履歴を把握する。また,新型コロナの感染状況の改善も見込まれるため,オマーンオフィオライトの現地調査を今年度は実施する計画である。
すべて 2022 2021 2020
すべて 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 9件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 17件、 招待講演 3件)
Precambrian Research
巻: 374 ページ: 106656~106656
10.1016/j.precamres.2022.106656
The Journal of the Geological Society of Japan
巻: 127 ページ: 59~65
10.5575/geosoc.2020.0050
Journal of Structural Geology
巻: 143 ページ: 104237~104237
10.1016/j.jsg.2020.104237
Lithos
巻: 384-385 ページ: 105941~105941
10.1016/j.lithos.2020.105941
Journal of Mineralogical and Petrological Sciences
巻: 115 ページ: 247~260
10.2465/jmps.191008
巻: 374-375 ページ: 105686~105686
10.1016/j.lithos.2020.105686
Philosophical Transactions of the Royal Society A: Mathematical, Physical and Engineering Sciences
巻: 378 ページ: -
10.1098/rsta.2018.0425
巻: 115 ページ: 303~312
10.2465/jmps.190807
Journal of Geophysical Research: Solid Earth
巻: 125 ページ: -
10.1029/2019JB018698
巻: 126 ページ: 713~717
10.5575/geosoc.2020.0043
Geochemistry, Geophysics, Geosystems
巻: 21 ページ: -
10.1029/2020GC009199