研究課題/領域番号 |
20H02638
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
Lee HeunTae 大阪大学, 工学研究科, 講師 (90643297)
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研究分担者 |
Dino Wilson 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (60379146)
長久保 白 大阪大学, 工学研究科, 助教 (70751113)
伊庭野 健造 大阪大学, 工学研究科, 助教 (80647470)
佐藤 仁 広島大学, 放射光科学研究センター, 准教授 (90243550)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ベータタングステン / 薄膜 / プラズマ / 電子状態 / 光電子分光 / 第一原理計算 / 弾性定数 |
研究実績の概要 |
令和3年度の研究実績は下記のとおりである。 1)ベータタングステン(β-W)の合成メカニズムは動力学的な機構に支配されていることが分かった。成膜時のプロセスパラメーターであるAr圧力とターゲット基板間距離を変化させ、それらがβ-Wの結晶構造の安定性に及ぼす影響を調査した。成膜速度を増加るとα-Wからβ-Wに結晶構造が変化することから、β-W膜成長は動力学的な機構に支配されていると考えられる。また、β-W膜の弾性定数は第一原理計算から求めた弾性定数と良く一致することから、欠陥や応力の少ない純粋なβ-Wの成膜に成功したと考えられる。 2)β-Wが本来持つ電子状態の光電子分光測定に世界はじめて成功した。放射光を用いてβ-W とα-Wのフェルミレベル付近の電子密度を測定した結果、0から-1 eVの範囲のβ-Wの電子状態が、α-Wの電子状態より高いということが分かった。この違いは第一原理計算から得られた電子状態とも良く一致した。またXPS法によって、β-Wはα-Wに比べ、W-coreのスペクトルの幅がより広いという結果が得られた。この結果はβ-Wがα-Wに比べ価電子帯の電子密度が高いことを意味し、放射光実験結果と良く一致した。以上の結果よりβ-Wのフェルミレベル付近の電子状態が高いことは、β-Wの巨大なスピンホール効果に起因すると考えられた。 3)第一原理計算を用いてβ-Wとα-W中の不純物(酸素、水素、ヘリウム)の安定性と電子状態に及ぼす影響を調査した。β-Wとα-W中の酸素の溶解度エネルギーはそれぞれ-0.34 eVと+0.66 eVであったことから、酸素はβ-Wと発熱反応を起こすことが分かった。また、β-W中の酸素はフェルミレベル付近の電子状態を高めることが分かった。β-Wはα-Wと比べ水素の溶解度エネルギーが低いため、水素の吸蔵が増加すると予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は粒子の挙動、不純物、欠損がスパッタ法により製膜されたベータタングステン(β-W)薄膜の生成メカニズム及び機械的電子的特性に及ぼす影響を明らかにすることが目的である。以下の点で当初の想定通り計画が進んでいるため、上記のように進捗状況を判断した。 ○欠陥や応力の少ない純粋なβ-W薄膜の製膜制御に成功し、製膜パラメータ(圧力、ガス種、基板材料、温度)による結晶構造への影響を理解した。その結果、β-Wの合成メカニズムは動力学的な機構に支配されていることかわかった。 ○β-Wとα-Wの機械的電子的特性の差異に関する、電子特性を支配する状態密度を含む実験的および理論的理解を進めている。また、β-Wとα-W中の不純物(酸素、水素、ヘリウム )が安定性と電子状態に及ぼす影響を明らかにした。 ○上記の理解をもとにβ-Wより巨大なスピンホール効果を持つベータタンタル(β-Ta)又はW-Ta合金の新材料の成膜にチャレンジすることが可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、以下の様に考えている。
1) β-Wの合成メカニズムは動力学的な機構に支配されていることから、レーザー誘起蛍光法を用いた成膜時のタングステン中性粒子の速度分布の計測が重要である。 2) 欠陥や応力の少ない純粋なβ-Wの成膜に成功したため、β-Wの巨大なスピンホール効果が内因性か外因性かをスピン輸送実験から明らかにすることが可能である。 3) 欠陥や応力の少ない純粋なβ-Wの成膜に成功したため、高純度・欠陥が少ないベータタンタル(β-Ta)成膜にチャレンジすることが可能である。 4) β-Wが本来持つ電子状態の光電子分光測定に世界はじめて成功したため、不純物が電子状態に及ぼす影響を明らかにすることが可能である。
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