研究課題/領域番号 |
20H02903
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
土居 克実 九州大学, 農学研究院, 教授 (40253520)
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研究分担者 |
田代 康介 九州大学, 農学研究院, 准教授 (00192170)
廣政 恭明 九州大学, 農学研究院, 准教授 (40291934)
岩本 武夫 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (90568891)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 繊維状ファージ / 好熱性ファージ / Thermos thermophilus / M13 / 一本鎖DNA結合性タンパク質 / ゲルシ フトアッセイ / サーマルシフトアッセイ |
研究実績の概要 |
本研究では、これまでに報告例のない好熱性繊維状ファージの生活環に関わる分子機構と遺伝子機能を明らかにし、常温性繊維状ファージのそれらと比較することを目的とした。 繊維状ファージの生活環で一本鎖DNA結合性タンパク質(SSB)はDNA複製、組換え、分配に重要な役割を果たす。そこで、Thermus thermophilusに感染する好熱性繊維状ファージゲノム上にコードされているSSBを発現させ、熱安定性、核酸結合特異性等を常温性繊維状ファージのSSBと比較し、好熱性繊維状ファージのSSBの機能を解明した。 好熱性繊維状ファージΦOH16及び常温性繊維状ファージM13のssb遺伝子をそれぞれpET21aにクローニングし、大腸菌Rosetta2 (DE3)pLysS株で発現させ、生産菌体破砕物からNi-NTAアフィニティークロマトグラフィーでタンパク質を精製した。次に、精製SSBの結合特性を検討するため、ssDNAおよびdsDNAに対するゲルシ フトアッセイを行った。また、精製した各SSBの熱安定性をサーマルシフトアッセイによって評価した。 ゲルシフトアッセイの結果、M13SSBには配列特異性はなく、ssDNAに特異的に結合する一方で、ΦOH16SSBはssDNAに優先的に結合するが、dsDNAにも結合性を示した。さらにssDNAに対する結合を比較すると、ΦOH16SSBはM13SSBと比べてより低濃度でも核酸に強く結合した。サーマルシフトアッセイの結果、M13SSBは55℃の熱処理で失活するのに対し、ΦOH16は100℃までの耐熱性を示した。 上記から、ΦOH16SSBとM13SSBは、分子量やpIや特性は類似する ものの、アミノ酸の相同性がほとんどなく 、好熱性繊維状ファージのSSBには常温性繊維状ファージのSSBにはない、核酸に強く結合する領域やループ構造があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴い、4月より7月まで基本的に在宅勤務となり、実験が実施できなかった。さらに、コロナウイルス感染検査のためのPCRを行うため、新しく購入したPCR機器の消耗品(マイクロプレート等)の供給が2020年年末より2021年春まで受けられず、本機器を使用した実験が実施できなかったため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は複製以外の宿主認識、転写・翻訳、分泌など生活環に関わる分子機構と遺伝子機能を明らかにし、常温性繊維状ファージのそれらと比較する。また、転移酵素遺伝子をゲノム上にもつ繊維状ファージDNAの溶原化と切出し機構を解明し、極限環境下での遺伝子水平伝播の機構を解明する。 さらに、溶菌を伴わない繊維状ファージ感染を宿主細胞が「侵入」と認識して応答するか否かを、溶菌ファージ感染に応答する獲得免疫システムの経時的転写プロファイルとの相違を基に解明して、好熱性繊維状ファージに対応する獲得免疫システム調節因子の存在を究明するためにRNAseqを行い、これらの機構を解明する予定である。
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