研究課題/領域番号 |
20H02917
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
稲葉 靖子 宮崎大学, 農学部, 准教授 (80400191)
|
研究分担者 |
佐藤 光彦 公益財団法人かずさDNA研究所, 先端研究開発部, 研究員 (30783013)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 発熱植物 / ミトコンドリア / 環境シグナル / シアン耐性呼吸酵素 / 適応進化 |
研究実績の概要 |
2年目も、1年目の昨年度に引き続き、コロナ禍による影響を受けたため、繰越申請を行った。そのため、本研究実績の概要は、2年目および繰越申請期間内に行った2つの実績を、合わせて記載する。 当該期間に行った研究では、発熱植物ザゼンソウ(Symplocarpus renifolius)の発熱期花序における糖の輸送および転流機構の解明を目指して研究を推進した。これは、花の熱生産において、糖はエネルギー供給源としてのみでなく、成長・発育促進剤としても重要な役割を担っており、花の発熱を誘導する短期的機構を解明する上で、当該機構を明らかとすることは必要不可欠であるからである。本研究では、RNA-seqによって熱発生時に発現が上昇するSTPsとして同定された糖輸送体(STPs)、SrSTP1およびSrSTP14の遺伝子に注目した。リアルタイムPCR結果から、両STP遺伝子のmRNA発現が、pre-thremogenic stageからthermoenic stageにかけて発現が上sh用して、発熱期の雄しべで有意に高いことがわかった。ヘキソース輸送能を欠く酵母EBY4000株にSTP1およびSTP14を導入・発現させたところ、グルコース或いはガラクトース培地上において、EBY4000株の生育欠損が回復した。昨年度の本申請研究で開発したザゼンソウ葉由来プロトプラストでの一過的遺伝子発現技術を用いて、STP1およびSTP14の細胞内局在を調査した結果、いずれも、主に細胞膜で局在していることを示した。さらに、in situ hybridizationにより、STP14は、発熱期雄しべ葯内の発達花粉で高く発現していることがわかった。これらの結果は、SrSTP1とSrSTP14が細胞膜でヘキソース(グルコースやガラクトースなど)を輸送することを示し、SrSTP14が花粉前駆細胞へのヘキソースの取り込みを通じて、花粉発生に関与している可能性を示唆した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目の今年度は、コロナ禍のため、研究の進捗に遅れが出たが、繰越申請期間での研究により遅れを取り戻すことができた。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究進捗を踏まえて、今後の研究推進方策としては、以下に力点を置いて進め、分子機構と進化プロセスの両面から植物の発熱を誘導する機構の全容解明を目指す。 1. 発熱性を持つザゼンソウ(S. renifolius)と発熱性がない或いは微弱なヒメザゼンソウ(S. nipponicus)を研究対象として、生態ニッチモデリングによる過去から現在に至るまでの生息分布の変遷を調査する。また、S. renifoliusとS. nipponicusの葉緑体ゲノムおよび核ゲノムの主要配列を用いた系統解析により、日本を中心とする両種の集団構造を明らかとする。一連の解析により、ザゼンソウの発熱形質が寒冷適応の結果として生じたものである可能性を検証することが可能である。 2. ザゼンソウには、今年度に詳細な研究を行ったSrSTP1, SrSTP14の他にも、発熱期に発現が上昇する糖輸送体がRNA-seq解析により見出されている。これらの糖輸送体に関して詳細な調査を行う。ザゼンソウのゲノム解読が完了次第、本植物の糖輸送体遺伝子の配列を全て抽出して整備して、本植物の熱生産を支える糖輸送および転流機構を全容を明らかとする。 3. ソテツの発熱組織小胞子葉ミトコンドリアでは、非発熱組織小胞子のうミトコンドリアに比べて、発熱関連タンパク質であるAOXを多量に含むという結果を得た。これを基に、de novo RNA-seqにより作成したデータベースを用いたプロテオーム解析を行い、小胞子葉ミトコンドリアで、小胞子のうミトコンドリアよりも高く発現するタンパク質グループを特定する。
|