研究課題/領域番号 |
20H02917
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
稲葉 靖子 宮崎大学, 農学部, 准教授 (80400191)
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研究分担者 |
佐藤 光彦 公益財団法人かずさDNA研究所, 先端研究開発部, 研究員 (30783013)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 発熱植物 / ミトコンドリア / 環境シグナル / シアン耐性呼吸酵素 / 適応進化 |
研究実績の概要 |
一部の原始的な種子植物には、「光や温度などの環境シグナルを受容して生体内で発熱を誘導する機構」が内在している。発熱植物の大部分はソテツ(裸子植物)とサトイモ科植物(被子植物)が占め、これらの植物はシアン耐性呼吸酵素AOXと呼吸鎖を連携させて発熱を誘導する。しかしながら、AOXはミトコンドリア内膜の内側に埋め込まれた膜タンパク質であり、環境シグナルと熱産生をつなぐ機構は依然として不明である。そこで本研究では、ソテツおよびサトイモ科植物などの主要な発熱植物および発熱形質の異なる近縁属/種を用いて、分子機構と進化プロセスの両面から植物の発熱を誘導する機構の全容解明を目指す。 3年目の今年度は、生物系統地理学研究で汎用される生態ニッチモデリングにより、発熱性を持つザゼンソウ(Symplocarpus renifolius)と発熱性がない/微弱なヒメザゼンソウ(S. nipponicus)の過去から現在までの地理的分布および葉緑体DNA・核DNAの系統解析による集団構造を比較から、ザゼンソウの発熱が低温での生存に有利に働いたのかを検証した。その結果、最終氷期において、ヒメザゼンソウの分布は減少し、ザゼンソウの分布は拡大したことが明らかとなった。また、当該2種の集団構造は遺伝的に分節化されており、ザゼンソウの遺伝的多様性はヒメザゼンソウのそれよりも高いことが示された。本研究の結果は、ザゼンソウの花弁の温度上昇が氷河期における分布の拡大に寄与し、寒冷適応による遺伝的多様性が増加したことを示唆するものである。 上記の研究と並行して、文部科学省科学研究費助成事業の学術変革領域研究『先進ゲノム支援』と共同で、ザゼンソウおよびヒメザゼンソウ等のゲノム解析研究を推進して、ザゼンソウの新規ゲノム解析およびヒメザゼンソウの全ゲノム再シーケンス解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、植物の発熱を誘導する短期的および長期的機構の解明を目指している。前年度までに短期的機構解明のために必要な実験ツールを確立して、そして今年度において長期的機構解明に必要な実験ツールおよび専門を異にする研究者どうしの研究チームによる研究体制を構築することができた。現時点における進捗状況から、残り2年間の研究期間において、本申請研究の目標を十分に達成することができると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
まず、ザゼンソウおよびヒメザゼンソウのゲノム解読が完了したので、両者のゲノム構造を、ラージスケールおよびスモールスケールの双方から解析して、両者の比較により、ザゼンソウの発熱形質および生態的特徴に寄与する候補配列を抽出する。続いて、得られた候補配列が、ザゼンソウ属の別の発熱種等でも保存されているかをゲノム科学的に検討するとともに、他の植物データベースとの比較により、当該配列の機能などの推定を行う。また、抽出配列がタンパク質をコードする遺伝子の場合には、組織/ステージごとに発現の特異性を検討する。 並行して、ソテツ(Cycas revoluta)の発熱組織に含まれるミトコンドリアの性質を、非発熱組織のものと比較して発熱に関わるタンパク質等の候補をプロテオーム解析により特定するとともに、開花した球果の発熱ステージの違いによる遺伝子発現プロファイルの変化をRNA-seqにより解析する。さらに、野外に自生するザゼンソウおよびソテツの双方において、外部環境(特に、温度と光)の変化に伴う発熱組織の遺伝子プロファイル変化を、RNA-seqにより解析する。
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