温暖化に伴い、森林分布が拡大することが予測されている。樹木はその成長に必要な養水分を根で共生する外生菌根菌を介して吸収しているため、実生の定着や分布域の拡大には菌根共生が必要である。本研究では、樹木の生育していない非森林帯に樹木実生が定着するために適した条件を検証することを目的とする。これまでにユーラシアの森林北限を形成するカラマツを対象として、その菌根菌群集を明らかにしたところ、宿主特異的な菌種の優占率が高い傾向が見られた。
今年度は特に出現頻度の高かったショウロ属に着目し、その分布域について調査を実施した。国際データベースでは申請者らの登録した東シベリアのカラマツ林以外の記録は確認されなかった。また国内の気温傾度にそったカラマツ林にて菌根菌群集の調査を行ったところ、カラマツショウロは発見されなかった。よって、現時点で記録されているカラマツ特異的なショウロ属はカラマツショウロ1種である。さらに、カラマツショウロの優占率は北極域の森林限界で最も高く、調査地の緯度の低下とともに減少する傾向が明らかとなった。このことから、カラマツショウロは北極域の低温・乾燥環境に適応もしくは依存した菌種である可能性が考えられる。また室内でダフリアカラマツの実生への接種実験を実施したところ、ヌメリイグチ属(ハナイグチ、キノボリイグチ)やTomentella terrestrisで菌鞘形成が確認されたが、同じ条件ではカラマツショウロの菌鞘形成は確認できなかった。現在は実生を低温や乾燥環境で生育するなど、カラマツショウロの菌根形成の条件を探索中である。
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