研究課題/領域番号 |
20H03070
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
藤田 雅紀 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (30505251)
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研究分担者 |
木村 信忠 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究グループ付 (30344162)
二階堂 雅人 東京工業大学, 生命理工学院, 准教授 (70432010)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 殺藻細菌 / メタゲノム / メタボロミクス / アオコ / Pseudomonas |
研究実績の概要 |
① 同定した殺藻細菌および殺藻物質の実環境での機能解析 水草バイオフィルムから得たPseudomonas属殺藻細菌およびその殺藻物質であるpyoluteorinの野生微細藻類に対する影響を調べた。その結果、アオコ原因藻類であるMicrocystis属を検出限界以下まで減少させた。一方、ある種の緑藻の増殖を促進するなど、微細藻類の生育に対する二面性が観察された。また、微細藻類と殺藻細菌の共培養条件で特異的産生される化合物をメタボロミクス解析により見出すための方法論を検討し、培養から統計処理までの技術を確立した。 ② 赤潮・アオコ発生促進に関与する微生物の存在解析 アオコ原因藻類であるM. aeruginosa混釈培地に対して、環境から分離した菌を接種したところ、増殖促進活性を有する複数の細菌を見出した。それらの種を決定したところ、殺藻細菌として同定されるものも含まれていた。また、Pseudomonas属殺藻細菌の培養液から、植物成長促進活性を有する化合物を同定した。 ③ 未分離未培養の殺藻細菌の検出とそれが生産する殺藻物質の同定 殺藻細菌の供給源と考えられている水草のバイオフィルムについて、ヨシ・エゾヒツジグサ・エゾコウホネの3種を7-10月にかけ毎月採集し、微生物叢解析を行った。その結果、湖水中からほとんど検出されなかった、培養可能殺藻細菌を高い割合で見出すとともに、多くの未同定細菌が含まれることを明らかにした。 ④ 分離殺藻細菌からの殺藻物質および生合成遺伝子の同定 Pseudomonas属殺藻細菌とアオコ原因藻類M. aeruginosaとの共培養液環境で特異的に産生される化合物として、microcyclamideを同定した。本物質は細胞毒性が知られるM. aeruginosa由来の化合物である。殺藻細菌に対する抗菌活性を調べたところ、顕著な活性は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
① 同定した殺藻細菌および殺藻物質の実環境での機能解析 当初から計画していたメタボロミクスおよび統計解析を用いた微量サンプルからの殺藻物質候補化合物の探索方法を確立した。本方法論はこれまで細菌の単独培養液から得られた殺藻物質が実際の殺藻現象に関与するかという事を明らかにするための有用な方法であり、今後の研究の方向性に大きな影響を与えるものである。また、分離した殺藻細菌および得られた化合物が、M. aeruginosa培養株ではなく、環境中に存在する野生株に対しても活性を示したことは、殺藻細菌によるアオコ対策の実現に向けた大きな進展である。 ② 赤潮・アオコ発生促進に関与する微生物の存在解析 一次生産者である微細藻類を殺滅する殺藻細菌が、一方では微細藻類の増殖に関与するというのは生態系を考える上で合理的なものである。実際に当研究室でも海洋微細藻類と殺藻細菌の間にその可能性を示唆するデータを得ている。今回得られた結果は、複雑な微細藻類と細菌との間の相互作用を示すものであり、そこに関わる化合物の探索を可能にするものである。 ③ 未分離未培養の殺藻細菌の検出とそれが生産する殺藻物質の同定 前年度の湖水中の細菌叢の解析では分離培養できている殺藻細菌がほとんど検出できなかった。一方、本年度の水草バイオフィルムの解析では湖水中と比較して、高い割合で殺藻細菌が検出されたこと。これらの結果は水草バイオフィルムが殺藻細菌の供給源という考えを、遺伝子レベルで支持する結果となった。 ④ 分離殺藻細菌からの殺藻物質および生合成遺伝子の同定 Pseudomonas属殺藻類細菌4株についてショートリードおよびロングリードによるNGS解析を行った。アセンブルの結果、1株については完全長ゲノムを、その他については数個のコンティグからなるドラフトゲノムを得た。
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今後の研究の推進方策 |
① 同定した殺藻細菌および殺藻物質の実環境での機能解析 昨年度確立したメタボロミクスを用いた殺藻物質探索技術を用いて、細菌-微細藻類共培養からの実際の殺藻現象に関わる化合物の探索を行う。また、野生微細藻類に対する影響についても、検体数を増やす、培養時間を最適化する、データ処理方法の改善などを行い再現性の確認と定量性について詳細な検討を行う。 ② 赤潮・アオコ発生促進に関与する微生物の存在解析 殺藻細菌培養液から見出した植物ホルモン様物質について、モデル生物であるコウキクサおよび真核微細藻類に対する増殖促進活性を確認する。また、アオコ原因藍藻であるM. aeruginosaに対する増殖促進活性を示した細菌については、その発現条件の確認を行い、再現性のあるバイオアッセイ系の確立および化合物の探索を進める。 ③ 未分離未培養の殺藻細菌の検出とそれが生産する殺藻物質の同定 水草バイオフィルムから高い割合で殺藻細菌を見出したが、他にも多様な細菌の存在が認められた。そこで、本年度はバイオフィルム細菌叢をM. aeruginosaに投与し、殺藻前後の細菌叢変化を観測する事で、未分離未培養の殺藻細菌の検出を試みる。本検討は複数の水草を用い、また季節を変えて行う事でその多様性を検討する。 ④ 分離殺藻細菌からの殺藻物質および生合成遺伝子の同定 様々な環境試料からさらなる殺藻細菌の分離を試みる。それらについては定法に従い、バイオアッセイを指標にして活性物質の探索を行う。得られた化合物は各種スペクトル解析により、その構造を決定する。また、ゲノム解析から生理活性物質の生合成能について明らかにしていく。
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