研究課題/領域番号 |
20H03117
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
武田 育郎 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 教授 (60227022)
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研究分担者 |
深田 耕太郎 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 助教 (40633178)
吉岡 有美 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 助教 (40753885)
佐藤 裕和 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 助教 (90609364)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | リン回収 / 鉄バクテリア / 木質バイオマス |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き,島根県東部に位置する水田地域にある圃場整備によって地下水の流入の多い水田排水路の一部において,鉄バクテリアの生息するpH-Eh環境についての環境要素水文データや水域の還元状態に着目して調査した。また,この地域に流れている水の多くは,宍道湖に流入する最大の河川である斐伊川から取水した農業用水であることから,斐伊川の水質の長期変動についての検討も行った。斐伊川の河川水の水質は,pHが6.0~8.1程度であって水田地域よりも広範囲に変動するもののほぼ中性付近であった。一方,Ehは0.3~1.5Vで水田地域よりもやや酸化的な環境であることが分かった。また,浸漬後の鉄バクテリア集積物の担持した木質担体の吸着試験では,攪拌条件(シーソー型撹拌機を用いた撹拌の設定の一例として40RPM)にすると,24時間程度で十分な濃度低下がみられることがわかった。また,木質担体によって回収したリンは,土壌肥料学の知見より,高リン酸区のなかでも高いレベルに相当していることがわかったものの市販のリン肥料と比べると少ない含有率である原因に,回収した担体の約95%は木質組織であること,また鉄バクテリア集積物は木質組織の塊りの周辺に集まっていることが考えられた。さらに,河川水のPO4-P濃度と回収した担体のリンから,本方法は水域のリンを約9200倍のリン濃縮してレアアースの濃集と同様の機能を有することがわかった。こうしたリン吸着には,鉄バクテリアの生成する酸化鉄の化学形態(フェリハイドライト,ヘマタイト,ゲータイトなど)の構成割合が関与していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた研究を行い,鉄バクテリアと木質担体をつかったリン回収のための条件設定に関する有益な知見が得られ,また,環境中のリンの濃集効率が大きいことが分かったため。
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今後の研究の推進方策 |
申請者がこれまでに行った浸漬後の鉄バクテリア集積物の担持した木質担体の吸着試験の結果では,十分な濃度低下がみられるまでに15日程度が必要であったが,攪拌条件(たとえば,シーソー型撹拌機での40RPM)では,24時間程度で十分な濃度低下がみられることがわかったことから,その他の攪拌条件や温度条件における吸着特性を明確にする。また,木質担体によって回収したリンは,土壌肥料学の知見より,高リン酸区のなかでも高いレベルに相当していることがわかったものの市販のリン肥料と比べると少ない含有率である原因に,回収した担体の約95%は木質組織であること,また鉄バクテリア集積物は木質組織の塊りの周辺に集まっていることが考えられたことから,これら数値を上昇させる浸漬条件を探索する。さらに,河川水のPO4-P濃度と回収した担体のリンから,本方法は水域のリンを約9200倍のリン濃縮してレアアースの濃集と同様の機能を有すること,また,鉄は土壌中のクラーク数が4番目に大きい元素であり,鉄バクテリアも生育に適する条件(弱酸性でわずかな酸素欠乏)が整えば世界中で観察されるありふれた微生物であることから,さらなる汎用的な活用方法を考える。このことは,水域から陸域への移行過程が極めて限定的であり,今後50~100年で枯渇が懸念されるリン資源の回収の観点から持続可能な発展に寄与するものであり,これは地表近傍の水循環とも密接な関連を持つことから,土壌分析の結果を活用した水文学的な見地からのアプローチを含めた取り組みとなる。
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