研究課題
本研究では、非アルコール性脂肪性肝疾患から発生する肝がんの初期過程における微小エコシステムであるオートファジーの役割について、脂肪肝モデルとオルガノイドを併用した新規のモデル研究を用いて明らかにする。解析にあたり高脂肪飼料または超高脂肪飼料給餌モデル動物を用いて脂肪滴の非分布領域である肝前がん病変部をオートファジーの依存度の高い組織内飢餓領域と位置づけ、種々の選択的オートファジーの役割を明らかにしていく。本年度は、小胞体を選択的に取り込む小胞体ファジー(レティキュロファジー)、ペルオキシソームを取り込むペキソファジー、さらに、ミトコンドリアを取り込むマイトファジーについて検討した。1) 高脂肪飼料(45 kcal、ラード含有)給餌モデル動物を用いて割面小胞体を増加させる肝酵素誘導剤を投与し、肝細胞脂肪化と肝前がん病変形成を確認し、肝前がん病変におけるカーゴレセプターp62とレティキュロファジーレセプターFAM134Bの発現についてクラスター解析を実施した。2) 超高脂肪飼料(60 kcal、ラード含有または58 kcal%、ココナッツオイル含有)を使用しラット脂肪肝・肝前がん病変形成モデルとしての有用性を確認した。3) 超高脂肪飼料とペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPARα)アゴニストを投与し、脂肪肝と肝前がん病変解析と合わせて、PPARα、ペキソファジーマーカーPEX5とPEX5結合分子NBR1の発現解析を行った。4)肝臓の解析に先立ちマイトファジーが活発な精巣を用いて、マイトファジーマーカーPARKIN、PINK1、AMBRA1、BNIP3の有用性を確認した。5) これらの動物から肝オルガノイドを作製した。
2: おおむね順調に進展している
高脂肪飼料給餌(45 kcal、ラード含有)モデル動物を用いて割面小胞体を増加させる肝酵素誘導剤投与におけるレティキュロファジーの影響を検討した。肝前がん病変におけるカーゴレセプターp62とレティキュロファジーレセプターFAM134Bの共発現についてクラスター解析を実施したところ、両処置により各レセプター発現に違いがみられ、高脂肪飼料給餌ではp62高発現・FAM134B高発現の前がん病変が優位となった。両処置の併用によりレセプター発現が変化し、ERストレスの抑制により前がん病変が軽減した。次に、超高脂肪飼料(60 kcal、ラード含有または58 kcal%、ココナッツオイル含有)給餌実験では、いずれも肝細胞脂肪化が増加したが、肝前がん病変の増強効果は60 kcal食のみで確認でき、モデルとしての有用性が確認できた。ペルオキシソームを選択的に取り込むペキソファジーに着目し、超高脂肪飼料とPPARαアゴニスト投与の影響を検討した。PPARαアゴニスト投与により肝細胞のペルオキシソームを反映して好酸性化が増加し、脂肪化は抑制された。これに伴いペキソファジーマーカーPEX5の発現が増加したが、PPARαとPEX5結合分子NBR1の発現には差はなかった。両処置によりPEX5の発現と肝前がん病変は増強する傾向にあり、ペキソファジーの抑制が肝発がんの増強に関連することが示唆された。さらに、ミトコンドリアを選択的に取り込むマイトファジーに着目し、肝臓の解析に先立ちマイトファジーの活発な精巣を用いて解析を行った。マイトファジーマーカーのPARKIN、PINK1、AMBRA1とマイトファジーレセプターBNIP3の発現を検討したところ、精子細胞とライディッヒ細胞に特異的な発現がみられ、マイトファジーマーカーとしての有用性が確認できた。また、これらの肝臓からオルガノイドを作製した。
超高脂肪飼料(60 kcal、ラード含有)給餌により脂肪肝モデルにおける肝前がん病変について、レティキュロファジー、ペキソファジー、マイトファジー等の選択的オートファジーマーカーの解析を行い、脂肪肝と肝前がん病変形成におけるオートファジーとの関連性についてさらに検討を行い、脂肪肝・初期肝発がんモデルとしての有用性を検討する。超高脂肪飼料(58 kcal%、ココナッツオイル含有)給餌とPPARαアゴニスト投与の組み合わせにおいて前がん病変におけるPPARα、ペルオキシソームマーカーACOX1、ペキソファジー指標PEX5、ペキソファジーレセプターNBR1等の発現解析を継続する。PPARαアゴニスト投与では、一般にGlutathione S-Transferase P (GST-P)陽性肝前がん病変形成が抑制されるが、超高脂肪飼料給餌との組み合わせでは、肝前がん病変が増加傾向にあり、その機序を明らかにする必要がある。また、GST-P陰性肝前がん病変についても確認を行う。PPARαアゴニスト投与では、脂肪酸のβ酸化が亢進し脂肪化が抑制されるが、これに一致する結果が得られている。同時に実施した脂肪関連の血液生化学的検査では、PPARαアゴニストの併用により抗脂血症効果も確認できており、脂肪肝抑制の機序解明と合わせて、脂肪代謝関連の遺伝子発現の検討を行う。先に、精子細胞を用いたマイトファジーマーカーの有用性検討結果を踏まえ、高脂肪飼料(45 kcal、ラード含有)給餌とミトコンドリア阻害剤の併用実験において、AMBRA1、PINK1、BNIP3等のマイトファジーマーカーを用いて、脂肪肝、肝前がん病変とマイトファジーとの関連性について検討を行う予定である。さらにこれらの肝臓から作製した肝オルガノイドについても、これらのマーカー発現解析を検討する。
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Journal of Toxicologic Pathology, in press
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