研究課題/領域番号 |
20H03157
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
鈴木 浩悦 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 教授 (50277662)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 腎臓 / 糖新生 / 細胞増殖 / D-アミノ酸酸化酵素 |
研究実績の概要 |
1.SGLT2阻害剤により腎臓での糖の再吸収を抑制し、糖尿病の発症を阻止した動物においても腎臓サイズの増大は抑制されなかったが、持続的なインスリン投与に反応して血糖値の低下した動物では腎重量も低下していた。一方、インスリン投与に抵抗性を示した個体は、腎臓サイズの増大を示した。このことから発症個体で見られるインスリン分泌の低下は腎実質の増大を促進している可能性がある。 2.RNA-seqによる遺伝子発現解析は、糖尿病発症のDEKラットの腎臓で、細胞増殖や嚢胞腎形成に関わる遺伝子Xの発現上昇を示した。さらに、GSEA解析では、E2F標的遺伝子、G2-Mチェックポイントの進行、有糸分裂-紡錘体形成に関わる遺伝子の発現上昇が認められた。D-セリンがmTORシグナルの活性化を介して腎臓サイズの増大をもたらすことが報告されているが、mTORシグナル下流のP70S6キナーゼのリン酸化は亢進していなかったことから、DEKの腎臓サイズの増大はmTORシグナル経路以外の機構によって誘導されていると考えられる。 3.DEK系統ではピルビン酸投与で糖新生が亢進している傾向が見られ、さらに糖尿病の発症個体では肝臓の糖原性アミノ酸であるアラニンよりも、腎臓の糖原性アミノ酸であるグルタミンの投与によって、顕著な血糖値の上昇が観察された。糖新生の律速酵素の一つであるPEPCKの腎臓での発現レベルに顕著な増加は認められなかったが、腎臓サイズが増大しているため、腎臓全体で糖新生によって作られる糖の量が増加している可能性がある。 4.DEKの糖尿病発症個体と糖尿病を発症しない他系統の腎臓から尿細管上皮細胞を単離・培養し、尿細管上皮細胞のマーカー分子であるアクアポリン1の免疫染色により、細胞の性状を確認した。増殖活性の比較、インスリン、D-アミノ酸、メトホルミンの影響を調査中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
DEKの糖尿病の発症に腎臓サイズの増大が関連することが立証され、当初時間を要すると考えていた腎臓サイズの増大と関連する遺伝子変異としてD-アミノ酸酸化酵素(DAO)の欠損が既に同定されている。DEKにおいてDAOの欠損によって腎臓サイズの増大が生じるメカニズムは未だ明らかではないが、mTORの下流のP70S6キナーゼのリン酸化が亢進していないことから、D-セリンで報告されている既知のメカニズムとは異なる機構が存在することが示唆される。さらに、遺伝子の発現解析により、DEKの腎臓では細胞増殖に関連する遺伝子の発現が上昇しており、複数の個別の遺伝子の発現が顕著に変化しているため、これらの中に腎臓サイズの増大に関連する遺伝子が存在すると考えられる。一方、尿細管上皮細胞の単離・培養に時間を要したため、尿細管上皮細胞で細胞増殖が促進されるメカニズムについては、これからより詳細な研究が必要である。この点については実験の進捗がやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
DAOの欠損と腎臓サイズの増大との間の関連を明らかにするため、遺伝子発現解析で同定された腎臓で発現の変化している遺伝子について、その蛋白質としての発現動態を明らかにする。さらに、全ゲノム解析のデータを更新したリファレンスに当てることにより、DAOの欠損以外の病態に関連した遺伝子変異を同定する。尿細管上皮の単離培養系については、その方法の確立に時間を要したが、今後のところでその細胞増殖に対するインスリンやD-アミノ酸の影響を評価する。
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