研究課題/領域番号 |
20H03160
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
清川 泰志 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (70554484)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | フェロモン / 情動 / ラット / 社会行動 / ドブネズミ |
研究実績の概要 |
警報フェロモンに関する研究 警報フェロモンのリガンドである4-メチルペンタナールとヘキサナールはそれぞれ鋤鼻系と主嗅覚系で受容され、これらの情報が扁桃体内側核後腹部にて統合された後、分界条床核へと伝達されることが想定されている。そこで分界条床核に逆行性トレーサーを注入した後、扁桃体内側核にて観察したところ、後腹部を含め様々な領域にてトレーサーでラベルされた細胞を検出することができた。このことから、扁桃体内側核後腹部は分界条床核へ投射していることが確認された。 安寧フェロモンに関する研究 前年度に絞り込まれた候補物質のフェロモン活性を検討したところ、その1つである2-メチル酪酸は前嗅核後部を活性化することで扁桃体外側核を抑制した結果、ストレスを緩和した。そのため、2-メチル酪酸が安寧フェロモンであることが明らかになった。また2-メチル酪酸を野生ドブネズミに提示したところ、馴染みのない物体を避ける行動である新奇性恐怖を緩和したことから、安寧フェロモンは野生ドブネズミに対しても効果を発揮することが考えられた。並行して、安寧フェロモン作用に関与する神経化学物質を検討した。あらかじめラットにオピオイド、ドーパミン、オキシトシン、バソプレシンの受容体拮抗薬を投与したところ、オピオイド受容体拮抗薬を投与した場合のみフェロモン作用が阻害されることが明らかになった。またその際、側坐核、前帯状皮質、島皮質の活動を変容させることも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
警報フェロモンに関しては、現在想定している情報伝達経路が存在することを支持する解剖学的結果を得ることができた。また先行研究において、警報フェロモンが幾つかの系統のラットから放出された場合には効果を発揮しないことを発見した。そのためこの神経メカニズムを検討すべく準備を進めてきたが、これまでのところ順調に準備を進めることができている。そして安寧フェロモンに関しては、本研究計画の目的の一つであった、リガンドの同定を成し遂げることができたことが、本年の最大の成果である。それに加えて、オピオイドがフェロモン作用に関与することも明らかにした。現在はその詳細な神経メカニズムを検討するための準備を進めているところである。さらに、安寧フェロモン作用を野生ドブネズミにおいて検討する予備実験を行ってきたが、それも順調に進んでいる。加えて安寧フェロモンが社会的選好を生み出す神経メカニズムに関する様々な知見を得ることができた。以上を勘案すると、研究計画は当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
警報フェロモンに関しては、これまでの研究を継続し、発展させていく。すなわち、1)扁桃体内側核後腹部と分界条床核との接続が警報フェロモンを受容した際に活性化し、2) )扁桃体内側核後腹部と分界条床核との接続の活動を人工的に抑制するとフェロモン作用が抑制され、3) )扁桃体内側核後腹部と分界条床核との接続の活動を人工的に活性化するとフェロモンが存在しなくてもフェロモン作用を誘導できること、を検討する予定である。また受容体同定に関しても現在の研究を進め、候補受容体を絞り込んでいく予定である。 安寧フェロモンに関してもこれまでの研究を継続し、発展させていく予定である。神経メカニズムに関する研究では、基盤となる解剖学的情報をさらに収集するとともに、オピオイドが安寧フェロモン作用を生み出す神経メカニズムの詳細を検討していく。安寧フェロモンが野生ドブネズミに与える影響の詳細を検討するとともに、安寧フェロモンを野生ドブネズミのコントロールに応用するための技術開発にも適宜取り組んでいく予定である。
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