研究課題/領域番号 |
20H03230
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
光武 亜代理 明治大学, 理工学部, 専任准教授 (00338253)
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研究分担者 |
丸山 豊 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員(客員研究員) (80390665)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 分子シミュレーション / 膜蛋白質 / 環状ペプチド / 生物物理学 / 化学物理 |
研究実績の概要 |
これまで、蛋白質の分子シミュレーションに関して、物理化学の理論に基づく方法論の開発を行ってきた。本研究課題では、これら手法の開発を継続するとともに環状ペプチドや膜蛋白質系に関しての機能メカニズムを理解するための理論的な基盤の構築を行う。開発した方法を駆使して、アミノ酸置換により蛋白質やペプチドのデザインを行う。 10残基のシニョリンは2次構造をもつ最小タンパク質として知られており、NMRで天然構造が解かれている。シニョリンは蛋白質の分子シミュレーションのアルゴリズム開発にも使われている。分子シミュレーションでは、天然構造の他に準安定構造が得られている。これまでの我々の計算で、8番目のアミノ酸を他のアミノ酸に置換した変異体において準安定構造が安定化することを予測していた。今年度は、これについてNMR実験で検証した。T8P変異体は、準安定構造を取ることがわかった。シミュレーションから得られた結果を実験で検証した。 環状ペプチド系に関しては、環状ペプチドが蛋白質間相互作用を阻害する系を対象とした。この環状ペプチドは相互作用面とは違う場所に結合するため、蛋白質のダイナミクスの変化を調べる必要がある。今年度は、水中のペプチド単体の分子シミュレーションを実行して、環状ペプチド自体の安定性について調べた。この知見をもとに複合体のシミュレーションの解析を行う予定である。 また、膜蛋白質系に関しては、GPCRである睡眠に関係するオレキシン受容体2を研究対象とした。脂質膜を取り入れた系の構築を行い、大規模なシミュレーションを実行した。いくつかの変異体のシミュレーションを複数本実行して、緩和モード解析を用いて解析を行った。ある変異体に関して、不活性構造から活性構造に向かう構造変化が生じた。詳細な解析により、不活性構造と活性構造を見分ける原子間距離を提案し、構造変化に重要なアミノ酸を特定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで分子シミュレーションを主として研究を行ってきた。今年度は、NMRの実験家と共同研究を行い、実際に10残基のシニョリンのNMRスペクトルの解析を行った。NMRの測定は、共同研究者に行ってもらったが、スペクトルのデータを解析は本研究室で行った。一からスペクトルの帰属を行い、構造を行うことにより、NMRの解析方法を学んだ。今後分子シミュレーションを行って、NMR実験結果と比較していく上で重要な経験を積んだ。本研究室で予測していた準安定構造が安定化すT8P変異体で準安定構造を得ることができた。一方、他のアミノ酸に置換した変異体において、分子シミュレーションと実験の結果が違うものがあった。これを今後詳細に解析することにより、分子シミュレーションの力場依存性の問題にも取り組めると考えている。 環状ペプチドについては、環状にするための化学結合部分の力場の構築を行い、力場構築の経験を積んだ。今後低分子も含めた複合体の分子シミュレーションを行うのに必要になってくるため、有益であった。ペプチドは構造揺らぎが大きく、一つの構造を持ちにくい。環状にすることにより、安定な構造を持ちやすくなる。環状ペプチド自身の構造安定性を調べることにより環状にした時の効果について調べることができた。また、ペプチド自体の構造安定性がわかることにより、タンパク質と結合しやすいか判断できる。 膜蛋白質系のシステム構築に関しては、蛋白質の欠損部位のモデリング、脂質膜を取り入れた系の構築などをする必要があり、複数のプログラムを使う必要があった。この膜蛋白質系のシステム構築を行うことにより、様々な分子シミュレーションを行う上でのノウハウを学んだ。また、溶媒効果を取り入れた膜蛋白質系の安定性の評価をするシステム構築を行う予定で、この構築を行うための膜蛋白質のシミュレーションを実行でき、確実に研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
シニョリンの系に関しては、他の変異体に関してもNMRの解析を行い構造決定を行う。また、シミュレーションでは安定構造と準安定構造が得られるため、NMRで安定構造と準安定構造の存在割合を調べることができるか、分子シミュレーションから得られた結果とNMRの結果を比較することにより考察する。また、大きく実験結果と分子シミュレーションの結果が違っている場合、分子シミュレーションで用いる力場の問題が考えられるため、複数の力場で分子シミュレーションを行い、NMR結果と比較することにより、力場の評価を行う。また、可能であれば、アミノ酸毎の安定性を評価することにより、安定性のメカニズムを分子レベルで調べる。これを行うにあたり、アミノ酸毎の安定性を評価するシステムの構築が必要であるので、これを進める。 環状ペプチド自身の特性はわかったので、蛋白質との複合体のシミュレーションを行い、結合のメカニズムについて考察する。また、ペプチドが結合することによって、蛋白質間の相互作用が弱くなるメカニズムについて動的な視点を用いて解析する。 膜蛋白質系においては、これまで得られた結果をまとめて論文化を行う。また、低分子結合系やG蛋白質が結合した蛋白質複合体の系を構築して、分子シミュレーションを行い、活性化メカニズムについての原子レベルでの知見を得る。加えて、膜蛋白質のアミノ酸置換による溶媒効果を取り入れた安定性の違いを評価できるシステム構築を継続して行う。
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備考 |
Physical Review Letterに関する論文の内容を慶應義塾大学が主として、東京理科大学と明治大学とでプレスリリースした。
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