研究課題
森林を対象とした基礎及び応用科学のニーズは高い。日本学術会議でも、持続可能な森林管理に向けた早急な対策と科学の在り方が強調されている。同様なニーズは、国連の枠組下での森林原則声明をはじめ、繰り返し強調され続けている。2019年に、気候変動に関する政府間パネルが公表した「気候変動と土地関係特別報告書」の政策立案者向け要約版でも、より良い土地利用の在り方としての持続可能な森林管理が、気候変動対策に必須としている。森林に求める公益性は、木材生産だけではない。樹種多様化による森林の炭素隔離と貯蔵能力の向上は、気候変動の著しい今、社会にとって必須の生態系サービスである。多種多様な生物種からなる森林を維持し、持続可能に管理することの必要性が問われる今、炭素吸収源としての森林の役割を再精査する必要がある。なお、生物多様性が生態系の機能性を高め、生態系サービスを維持するという事象に関する理論的知見は、草地試験地における多様性操作を中心に理解を深めてきた。一方で、数多の公益的機能とサービスを提供する森林生態系についての知見はまだまだ限定的である。多種多様な生物種からなる森林を維持し、持続可能な形で管理することの必要性が問われる今、さらなる知見の集積が求められている。本研究プロジェクトでは、野外で樹木多様性を操作する植栽試験を大規模に実施している。とくに、多種共存メカニズムに着目し、自然のプロセスにより多様性が維持されている状況を再現したことに新規性がある。今後は、その結果としての一次生産等の生態系能性への帰結を評価することを計画している。得られるデータにより、「生物多様性が生態系機能を支えるメカニズム」の基本的な理解を得て、自然科学の理論に根差した森林管理の在り方を模索する。そして、この目的の達成のために、植栽実験地の維持管理、データ取得、また実験地の広く研究者や学生への公開利用を進める。
2: おおむね順調に進展している
実験地設定当初、想定外の食害(ウサギによる)を植栽樹木が受けたこと、翌年夏の例外的な旱魃により、再植栽が必要となった。しかしながら、その後実験地は完成したためおおむね順調であると言える。また、すでに土壌環境や樹木個体の個別データの取得も進んでいる。
本研究では、操作的に種間と種内競争の相対バランスを変化させる実験区を設ける。これにより多種共存メカニズムを操作する。ここでの仮説は、『多種共存が成り立つ条件下こそ、多様性―機能性の正の関係性が生じる』である。これにより多種共存系から生じる生態系機能(バイオマス生産)を定量的に評価する。これまでの3年度で、北海道大学天塩研究林おいて植栽による実験準備を進めてきた。今後は、継続して樹木成長量や土壌環境条件の測定を行う。
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Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences
巻: 378 ページ: in press
10.1098/rstb.2022.0192