研究課題/領域番号 |
20H03777
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
古賀 浩平 兵庫医科大学, 医学部, 准教授 (50768455)
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研究分担者 |
内田 仁司 新潟大学, 脳研究所, 助教 (30549621)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 慢性疼痛 / 前帯状回 / シナプス可塑性 |
研究実績の概要 |
急性の痛みは生体防御に必要な感覚である一方、慢性疼痛は不快や嫌悪感から始まり、不安やうつなど負の情動を形成することが臨床で問題となっている。しかしながら、急性痛が慢性疼痛にいかに移行するかの過程や神経回路は未だ明らかになっていない。そこで、これまでに明らかにしてきた前帯状回のシナプス前終末の長期増強が慢性疼痛で惹起される不安様行動のシナプス可塑性である結果を基に、痛みに関連する神経回路の探索と投射選択的なシナプス可塑性の解析を行った。具体的には、視床は前帯状回に投射する痛み関連領域の一つであることが解剖学研究で明らかになっている。従って、マウスの視床の背内側核に順行性トレーサーを局所投与して脳組織を透明化した後、全脳イメージング手法であるCUBICで解析を行った。その結果、視床背内側核の神経細胞は、前帯状回に非常に強い投射があることを認めた。さらに、視床背内側核は前帯状回だけでなく、その他の痛み関連領域にも投射していることが明らかとなった。 次に、光遺伝学と電気生理学的手法を組み合わせて前帯状回に投射する選択的なシナプス伝達を確立した。さらに、慢性疼痛の発達時期におけるシナプス可塑性を調べた。慢性疼痛モデルマウスの初期における視床ー前帯状回のシナプス伝達はシナプス前終末及び後膜に可塑的な変化を示した。さらに、慢性疼痛の3-4週間後の後期においても解析を行った結果、強いシナプス可塑性が形成が保存されていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
痛み関連領域の神経回路を明らかにするために行った脳組織の透明化と全脳イメージング手法であるCUBICを立ち上げた。マウスの視床の背内側核に順行性トレーサーを局所投与してCUBIC法で解析すると、マウスの視床背内側核の細胞が本研究の標的領域である前帯状回に非常に強い投射があることを認めた。さらに、視床背内側核は前帯状回だけでなく、その他のいくつもの痛み関連領域やこれまで知られていない脳領域にも投射していることが明らかとなった。 また、光遺伝学と電気生理学的手法を組み合わせて投射選択的なシナプス伝達と疼痛モデルによる可塑的な変化を解析した。視床ー前帯状回のシナプス可塑性は、慢性疼痛モデルマウスの初期においてシナプス前終末及び後膜に可塑的な変化を示した。さらに、慢性疼痛モデル3-4週間後の後期において解析を行った結果でも、強いシナプス可塑性が形成されていたことから、視床ー前帯状回間のシナプス伝達は慢性疼痛の初期から可塑的な変化が起きて、さらに3-4週間後の後期まで持続する主たる投射の可能性が考えられる。この視床ー前帯状回のシナプス可塑性が起こる仕組みをこれまでに同定した分子機構と比べている。 慢性疼痛によるシナプス可塑性を制御する分子機構を標的にした慢性疼痛行動の緩和を計画していたが、データの取得まではできていない。しかしながら、手術を行うために機器や手順は習得しているので、今後実験を行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
痛み関連領域の神経回路を明らかにするために立ち上げた脳組織の透明化と全脳イメージング手法から、マウスの視床背内側核の細胞が本研究における主な標的脳領域である前帯状回に強い投射を示すことが明らかになった。さらに、視床背内側核からはその他のいくつかの痛み関連領域だけでなくこれまで着目されていない脳領域にも投射していることがわかってきた。この結果は、視床が中継核となって疼痛ネットワークを形成していることが考えられる。したがって、今後は、この視床ー前帯状回のシナプス伝達だけでなく、視床ー他の疼痛関連領域、さらには、他の疼痛関連領域ー前帯状回の投射選択的なシナプス伝達でも光遺伝学と電気生理学的手法を組み合わせて調べていく。そして、慢性疼痛を司る主要な神経回路を明らかにするために、慢性疼痛モデルマウスにおいて慢性疼痛の時期に特異的なシナプス可塑性とその分子機構をこれまで同定してきた標的因子を基に調べる。 また、同定された投射選択的なシナプス可塑性を標的とした慢性疼痛の行動解析を光遺伝学と行動学を組み合わせて明らかにする。シナプス可塑性の形成や維持に関わる標的因子を薬物の持続投与などにより制御した時に疼痛関連行動が緩和できるかを調べる。疼痛関連行動には、von Freyテストによる機械刺激、ホットプレートによる熱刺激テストを用いる。情動行動には、条件付け場所嫌悪行動による不快感や高架式十字迷路による不安様行動を予定している。
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