研究課題
AAVベクターと間葉系細胞MSCを用いた遺伝子細胞治療の実用化推進に向け、ベクター関連基盤技術の開発や間葉系細胞炎症制御機能の解析を推進した。様々な難治性脳神経疾患において分子病態と臨床情報との繋がりが解明され、遺伝子編集や幹細胞を応用した遺伝子細胞治療の可能性が期待されているが、遺伝子送達担体や組織標的技術に関しさらなる技術革新が求められている。我々は、神経筋組織で治療タンパク質を効果的に補充するためのベクター関連技術、MSCを応用した脳虚血再灌流障害に対する炎症制御療法、悪性神経膠腫に対する標的化遺伝子増幅療法を開発してきた。これらをさらに発展させ、脳虚血再灌流障害や悪性神経膠種に対する新規治療法の開発を推進するため、治療遺伝子の送達や細胞プラットフォームに関連する基盤技術の開発と改良が求められる。本研究では、独自のベクターゲノム設計、ベクター製造・精製、幹細胞解析に関する技術を統合し、難治性脳神経疾患に対する遺伝子細胞療法の医療実装に向けた技術革新を推進することを目的とした。組織幹細胞を応用した脳虚血再灌流障害の治療では、細胞投与時に細胞に伴って循環する分泌小胞の機能が重要であり、移植細胞の長期生存は安全性の観点でも不要である。このため、細胞の遺伝子修飾においては染色体挿入は必須ではなく、染色体挿入を伴うレンチウイルスベクターよりも安全性が高いAAVベクターが有用である。次世代のAAVベクターとMSCを用いた遺伝子細胞治療の開発に向け、ベクター関連技術の開発を推進すると同時に、MSCの特徴を解析し炎症制御に重要な機能を検証した。
1: 当初の計画以上に進展している
遺伝子挿入を伴わないAAVベクターとMSCを用いた体外法遺伝子治療の開発に向け、ベクター基盤技術の検証を行った。不完全粒子や不要配列誤封入のリスク低減化に向け、ベクターの設計、精製や分析に関する基盤技術の開発を進めた。ddPCR分析により、ITR フラグメントの予想外のパッケージングが原因で、精製過程の不完全AAV 粒子にはITRの小さなフラグメントが多く含まれていることが示唆され、これに対応するベクターのデザインを検証した。また、細胞外小胞に包まれたAAVを活用した炎症性疾患治療の可能性について考察を行った。間葉系細胞に関し、由来組織の特徴を考慮し炎症制御に重要な機能を検証した。MSCと共培養した末梢血単核細胞上の抗炎症性M2 マクロファージマーカーの発現を分析し、プロスタグランジンE2産生を介してPBMCでM2マクロファージ分極が誘導されることを見出した。炎症制御機能の生体解析のため、MSCを炎症性疾患DMDのモデルマウスに静脈内投与し、炎症病態を評価した。 MSC 処理および未処理のマウスにおいて、血液検査、組織学的検査、自発的な車輪走行活動、握力、および心エコー検査を評価した。 MSC全身反復投与により、マウスは血清クレアチンキナーゼの一過性低下を示し,、M2 マクロファージの増加とサイトカイン/ケモカイン発現の変化がMSC 処理マウスの骨格筋で観察された。 長期観察では、MSC処理マウスでは握力低下が大幅に改善され、走行持久力や距離が延長した。 さらに左心室機能がMSC 処理マウスで改善された。脳梗塞急性期の脳虚血再灌流障害における間葉系細胞の作用機構として、さまざまなサイトカインやケモカインによるミクログリア活性化およびリンパ球増殖の制御や調節性T細胞の誘導について考察を行った。
引き続き、AAV基盤技術や遺伝子導入法の開発を推進し、難治性脳神経疾患への応用に向けた治療研究を推進する。また、安全で臨床的効果が高い細胞性医薬品の開発に向け、間葉系細胞の特徴を解析し、炎症制御効果や重要な機能分子を探索する。
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