研究課題
人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell: iPSC)は、初期胚の発生を解明、あるいは加齢に伴う変性疾患を治療するための自己細胞代替療法を開発するための無限の供給源となる。最近の研究では、高齢のドナーから作製したiPSCには、ミトコンドリアゲノム(mtDNA)の変異やゲノムの不安定性が胚性幹細胞(embryonic stem cell: ESC)に比べて蓄積されていることが明らかになっており、これがiPSC由来の自己細胞に対する拒絶反応や腫瘍化、呼吸器系の障害につながり、臨床応用の障害となっている。加齢による幹細胞機能の低下に関わる分子経路を解明するため、若齢(6~8週)、中年(6カ月)、高齢(12~14カ月)、超高齢(24ヶ月)のマウスから、雌由来の単為発生胚由来ESC株と、皮膚組織由来のisogenicなiPSC株を樹立した。すべての多能性幹細胞株において、免疫組織染色およびqPCR法により、未分化能性および多分化能性が一様に証明された。RNAシークエンス解析の結果、若齢マウス由来ESCと比較して加齢マウス由来のiPSCでは防御やサイトカイン反応に関わる遺伝子の発現量が増加していた。ミトコンドリア機能解析では、プライム状態の幹細胞は酸素消費量が低いのに対し、ナイーブ状態の幹細胞はミトコンドリア酸化能力が向上してた。加齢に伴うATP産生速度の変化が予測されたが、呼吸機能、プロトンリーク、結合効率には加齢に伴う有意な変化は見られなかった。グローバルな代謝状態を解析するためメタボローム解析を行ったところ、若齢であってもESCとiPSCはことなる特徴を示した。ここまでの研究では、多能性幹細胞における転写と代謝の加齢依存性を明らかにした。今回のデータは、より質の高いiPSCの開発につながる可能性があり、再生医療にとって望ましいものと考える。
2: おおむね順調に進展している
予定していた幹細胞の樹立から未分化能性・多分化能性の解析は順調に進展している。NT-ES細胞の樹立はできていない一方で、共同研究体制の拡充とともに2022年度より予定していたメタボローム解析を先んじてはじめることができ、当初の計画以上に進展をしている部分もあるため。
今後は若齢のみならず、加齢個体由来幹細胞および体細胞のメタボローム解析を行う。並行してゲノム安定性試験を行う。胚性ゲノム活性化(ZGA)遺伝子Zscan5bを導入iPS細胞を樹立し、代謝への変化とゲノム安定性の改善が可能かどうか、同様の解析を行う。さらに幹細胞から線維芽細胞への分化系を確立し、iPS樹立に用いたoriginの体細胞との代謝の比較を行い、初期化による代謝への影響とZscan5bによる救済の可否について検討を行う。これら解析結果をまとめて加齢がもたらす幹細胞への影響と救済法について今年度中の論文の投稿を目指す。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Reproductive Medicine and Biology
巻: 20 ページ: 53-61
International Journal of Molecular Sciences
巻: 21(16) ページ: -
10.3390/ijms21165880
巻: 21(22) ページ: -
10.3390/ijms21228731