研究課題/領域番号 |
20H04089
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
瀧山 健 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40725933)
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研究分担者 |
古屋 晋一 上智大学, 上智大学, 准教授 (20509690)
進矢 正宏 広島大学, 人間社会科学研究科(総), 准教授 (90733452)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 身体運動科学 / 運動制御 / 運動学習 |
研究実績の概要 |
運動制御と運動学習を統一的に眺める枠組みを提案するために、全身運動を代表する特徴量の模索を行った。特に、全身運動を一つの特徴量に次元圧縮する際に最も有効な特徴量であると予想される身体重心に注目して、様々な速度での歩行・走行における身体重心軌道の計測と解析を行った(Takiyama+, 2020, J Biomech)。前額面に身体重心軌道を射影すると、その軌道は8の字型であること、歩行速度と共に8の字の形が変形することが定性的に議論されてきた。しかしながら、歩行速度と共に8の字がどのように変形しているかという定量的な評価はなく、加えて歩行から走行へと変化した際に示す8の字の変化もまた明らかではなかった。本研究では、歩行中に身体重心が示す軌道はリサージュ曲線によりフィッティングできることを示し、歩行速度に伴うリサージュ曲線のパラメータ変化に基づき、歩行速度に伴う身体重心軌道の変化を定量化した。その結果、定性的な議論では見逃されてきた8の字が変化する方向もまた歩行速度依存性があることを明らかにした。さらに、走行において身体重心が示す軌道のパターンは明らかでなかったものの、これらもまたリサージュ曲線によりフィッティングできることを明らかにした。興味深いことに、歩行ではリサージュ曲線は速度依存性を示したものの、走行では速度依存性はないことを明らかにした。この枠組みを発展させることで、健常者のみならず神経疾患ならびに筋骨格系疾患の患者における歩行の変調の理解が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、運動制御と運動学習を統一的に扱う枠組みの提案を目的としている。2020年度は全身動作が示す特徴量の定量化手法を提案した。特に、日常的な動作の一つである歩行走行において、全身動作の主要な特徴量である身体重心軌道を定量化する手法を提案した。これにより、歩行動作における運動学習を定量化する土台が一つ整ったといえる。特に、歩行動作ではスプリットベルト適応という運動適応課題が確立しており、スプリットベルト適応における身体重心軌道が示す適応パターンを解明することにより、運動学習と運動制御の接点を一つ明らかにできると考えられる。しかしながら、スプリットベルト適応における身体重心軌道を定量化するためには一つ解決しなければならない問題点が存在する。それは、身体重心軌道の非対称性である。スプリットベルト適応では左足支持期と右足支持期で異なる歩行速度になることが予想される。一方、リサージュ曲線は一般的に非対称な身体重心軌道を想定している。この対称性と非対称性の乖離を解消する手法を提案することで、運動適応に伴う身体重心軌道の変容を明らかにできると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
代表者が提案した対象な身体重心軌道の定量化を、運動適応に伴い現れると予想される非対称な身体重心軌道へと適用可能な枠組みへと拡大する。リサージュ曲線はフーリエ級数展開の一部のパラメータのみに制限した場合とみなすことができるため、フーリエ級数展開を用いることで非対称な身体重心軌道を定量化できると予想される。しかしながら、フーリエ級数展開は周期的な関数にのみ適用可能であるものの、運動適応では半分に切れた非周期的な曲線を扱う必要があると予想される。フーリエ級数展開における係数の推定方法は周期的な関数を想定しているものであるが、一般的な最適化手法を利用することで非周期的な関数への応用が可能であると予想される。したがって、今後の研究の推進方策としては、最適化手法とフーリエ級数展開を組み合わせた手法により、運動適応に伴う身体重心軌道の変容過程を明らかにすることである。これにより、運動制御の代表的な特徴量である身体重心と運動適応を統一的に眺める枠組みが提案できると予想される。
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