研究実績の概要 |
本研究の目的は,脳-身体システムが運動を構成する多様なパラメーターの兼ね合い(=運動の『文脈』)に身体運動を適応させているのか,その情報処理過程の生理学的機序を,脳波と筋電図の相関を評価する「皮質-筋コヒーレンス(CMC)」と呼ばれる生理学的指標を駆使してあきらかにすることである.先行研究では,「最大随意収縮の40%以下の低強度収縮時には,収縮強度によるCMCの差異は存在しない」とされてきた(e.g., Brown et al., J Neurophysiol 1998; Mima et al., Clin Neurophysiol 1999; Ushiyama et al., J Appl Physiol 2012).たしかに,ふたつの収縮強度によるCMC比較を1分間の持続的収縮時行った場合には,先行研究通りの結果となった.しかし,ふたつの収縮強度をランダムに繰り返すような断続的課題時には,低い強度の収縮時にCMCが有意に強くなった.こうした収縮強度によるCMCの差異は,異なるふたつの収縮強度で同様の実験をおこなった場合も観察されたが,ふたつの収縮強度のランダマイゼーションをなくした場合や初期の力の立ち上げを緩やかにした場合などには消失した.以上より,運動皮質による筋活動制御の戦略は,収縮強度というひとつのパラメーターによって一義的に決まるものではなく,どのような収縮を/どのようなスピードで/どのような順序で行うか,といった多様のパラメーターの兼ね合いに応じて変調するものであることが明らかになった.これらの成果により,公募調書に設定した「(研究1)収縮強度のコントラストがもたらす影響」のすべてと,「(研究2)初期運動誤差の有無による影響」「(研究4)課題のランダマイゼーションがもたらす影響」の一部の課題を達成することができた.
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