研究課題/領域番号 |
20H04349
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
脇田 昌英 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(むつ研究所), 研究員 (30415989)
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研究分担者 |
内田 裕 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(海洋観測研究センター), 主任研究員 (00359150)
永野 憲 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(海洋観測研究センター), 主任研究員 (40421888)
中野 善之 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 研究プラットフォーム運用開発部門, 副主任研究員 (20566103)
木元 克典 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(地球表層システム研究センター), 主任研究員 (40359162)
重光 雅仁 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(海洋観測研究センター), 研究員 (20511695)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 海洋環境変動 / 海洋酸性化 / 海洋環境評価 |
研究実績の概要 |
高生物生産力と水産資源を誇る西部北太平洋亜寒帯域は、ここ数年以内に冬季二酸化炭素の大気放出の停止により、海洋酸性化が加速し、炭酸カルシウムが溶解する未飽和状態になることが予想され、生物への影響も必至である。そのため、酸性化の加速と生物への影響を明らかにし、将来の社会発展予測シナリオに基づいた酸性化進行と生物影響の予測を行う。2020年度は以下を実施した。 1.MR20-E02(2020年12月)とMR21-01航海(2021年2~3月)に観測点K2で船舶観測データを蓄積した。ハイブリッド係留系に搭載した時系列自動採水器・ハイブリッドpH・CTD・酸素・紫外蛍光光度センサー、多層流向流量計等を回収・再設置した。紫外蛍光光度センサーの校正手法は確立した。国際会議でK2の酸性化モニタリングを紹介した。 2.2019年までのK2の炭酸系データについて、SDG14.3.1 data portalに提出した。加えて、これまでの溶存化学成分データから有意な経年変化を調べたが、酸性化による生物群集生産と石灰化への影響がまだ検出できなかった。 3.2015~2019年に得られたCTDとADCPの連続データを基に冬季酸性化に影響する物理変動の解析した結果、エルニーニョ現象の発生により冬季混合層へのDIC鉛直フラックスが強化され、冬季酸性化が近年加速していることがわかり、国際誌に論文を投稿した。さらに、1999~2019年までのK2の塩分データから底層の低塩化が検出され、公表した。 4.炭酸カルシウム殻の生成生物の弱化を直接評価するため、翼足類や有孔虫を採取し、マイクロX線コンピュータトモグラフィー装置による骨格密度を測定した。加えて、魚類への応答評価として、環境DNA試料を航海ごとに採取した。 5. CMIP6(第6期結合モデル相互比較プロジェクト)の将来の社会発展予測シナリオの結果を取得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍にもかかわらず、航海が実施され、2度も試料(海水・生物)の採取ができた点、時系列自動採水器による係留型時系列観測の回収・再設置を実施した点、西部亜寒帯循環の底層の塩分低下について論文受理された点、エルニーニョ現象発生により冬季混合層へのDIC鉛直フラックスが強化され、冬季酸性化が近年加速されたことについて国際誌へ投稿した点、紫外蛍光光度センサーについては、その校正手法を確立した点、これまでの炭酸系データ公表と酸性化モニタリング公表した点から、区分(2)に該当すると判断出来る。
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今後の研究の推進方策 |
1.2020年12月に回収した自動昇降計測ブイシステムとセジメントトラップを搭載したハイブリッド係留系に搭載した時系列自動採水器の試料の分析を行うと共に、ハイブリッドpH・CTD・酸素・紫外蛍光光度センサー、多層流向流速計等のデータ処理を行う。 2.これまでの観測データを元に、酸性化の進行を確認し、それにより炭酸カルシウム生成の弱化が起こるのかを調べるため、過去20年以上の溶存化学成分データを用いて、混合層の栄養塩、溶存無機炭素、アルカリ度等の各季節の気候値と観測値の差の経年変化と混合層以深の濃度勾配の経年変化を求め、炭酸カルシウム生成と生物生産の指標となる正味の群集生産の変化を調べる。 3.近年の西部亜寒帯循環の弱化による海面高度の上昇と主密度躍層の深化は、偏西風の10年規模の弱化に起因し、冬季混合層の酸性化抑制の一因である。加えて、この循環の弱化は、栄養塩、溶存無機炭素、アルカリ度を混合層下から流入させる鉛直拡散を制御する鉛直拡散係数を変化させ、生物生産に影響を与える可能性がある。そこで、係留データから混合層以深での鉛直混合過程を観測し、酸性化による生物への影響を引き起こすメカニズムを物理過程から明らかにする。 4.酸性化に対する炭酸カルシウム殻の生成生物の弱化を直接的に評価するため、2020年までに得られた殻を持つ動物プランクトンの翼足類や有孔虫を対象として、マイクロX線コンピュータトモグラフィー装置による骨格密度を3次元で測定し、その減少を定量的に評価する。 5. 本研究での観測結果から、酸性化の加速を検出した場合、今後の環境変化と生物への影響の予測が重要な課題となる。そこで、CMIP6に提出された「将来の社会発展予測シナリオに基づいて計算された結果」と現場観測結果を比較する。
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備考 |
JAMSTEC研究者総覧 脇田 昌英 http://www.jamstec.go.jp/souran/html/Masahide_Wakita_e57f0-j.html
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