研究課題
2022年度と、繰り越しおよび育児休業を挟んだ2023年度(課題としては22年度のもの)は、特にポグロムの記憶がその後の展開にどのように影響を与えたかという観点から研究を行い、国際的な場で報告を行ってきた。概要としては、特に旧ロシア帝国の内戦期に激化したポグロムがどのように記録されたかをロシア語シオニスト誌やシオニスト等による刊行物から読み取った。そこでは、単にユダヤ人が迫害されたことが漠然と記録されているのではなく、いくつかの層に分けて記述がなされ、また、国家権力の不在の問題が指摘されていることが明らかとなった。他方、1920年代のパレスチナでは、アラブ人とシオニストとの衝突が顕在化していくことになり、そのことについてシオニスト誌は言及している。その際に、「ポグロム」という言葉が出現し、まるで同じようなことがパレスチナで起きたかのように描かれている。こうしたことから、旧ロシア帝国での記憶が、パレスチナの現状認識を規定していたことを結論として提示した。これらについて、2022年度にイスラエルでのイスラエル学会(AIS)、リトアニアでのワークショップ、アメリカでのスラヴ学会(ASEEES)で報告を行い、2023年度は主に12月のパレスチナ/イスラエルに関する主催シンポジウムで報告を行った。以上から、自己をめぐる多層のなかに記憶を位置づけ、それが現在の認識を支える層とどのように関わるのかを探っていく視座を得ることができた。
2: おおむね順調に進展している
本科研当初より、コロナやロシアのウクライナ侵攻、また2023年のガザ戦争により、とりわけ国際会議を開催する計画は大きく狂っているが、資料などに基づく個人研究を地道に進め、2023年度に関連シンポジウムを開催し、24年度に書籍としてまとめる目処が立ったことで、差し引きでおおむね順調と評価する。
今年度は、記憶の問題、特に虐殺や強制移住に関するそれが、その後の紛争をどのように用意し、経路づけたかという観点で、国際的な研究プロジェクトを盛り上げていくべく、来年度の国際会議開催を念頭に準備を進めていく。7月のイスラエル学会(プラハ開催)で非欧米圏にイスラエル研究に関するラウンドテーブルに参加し、研究テーマだけでなく、研究環境という観点からも紛争に関連する研究を進めていくうえでのポイントを精緻化させたうえで人脈を広げていく。また、ユダヤ史の固有性にも目を配る必要があることから、ユダヤ史に関する新書を今年度前半までに完成させ、またシオニズムをヨーロッパ史に位置づける予備作業として、同様にシオニズムに関する新書をできるだけ今年度中に完成させる。
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