研究課題/領域番号 |
20H04471
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
鷲田 祐一 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 教授 (80521286)
|
研究分担者 |
永井 一史 多摩美術大学, 美術学部, 教授 (30740724)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | デザイン / 公共セクター / 都市開発 / 地方自治体 |
研究実績の概要 |
2022年度は、海外における行政施策にデザインがどの程度関与しているのかをヒアリングと現地視察を通じて検証した。調査対象にしては、米国オレゴン州ポートランド市と、インドネシア国ジャカルタ市周辺とした。 まずポートランド市については、魅力ある都市開発の事例として一時期話題になり、日本の地方自治体から数多く視察団が訪れた都市である。今回はポートランド州立大学ハットフィールド行政学部学部長に取材を実施した。その結果、ポートランド市でも地方自治体などの行政組織が直接デザイナーを雇用するケースは皆無で、民間のデザイン会社に委託の形式で実施されていることが判明した。またオレゴン州政府も同様で、雇用されているデザイナーは皆無であるということが判明した。そのため、都市景観などの管理や再開発は、市の経済状況に左右されることが多く、コロナ禍で観光産業等が不調になったため、落書きなどが増加してしまい、治安も悪化していることがわかってきた。 いっぽうインドネシア国ジャカルタ市周辺については、現地の経済研究所「ERIA」で文献検索および現地駐在の日本人研究者への取材を実施した。その結果、インドネシアに限らずASEAN諸国で行政組織にデザイナーが雇用されているという例は現段階では確認されていないとのことであった。しかしジャカルタ市は2024年から首都機能を移転し、同時に2050年には水没の危険があるという問題に対処するため、今後、大規模な都市開発をする必要に迫られている。デザイナーや建築家が行政組織に雇用されることの潜在的なメリットは大きいと思われるが、これまでのようにODAなどによる他国資本に依存した開発手法を今後もとる場合は、デザイナーが独自に雇用されることは考えにくい、とのことであった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究を開始した当初の想定よりも、日本のみならず海外でも「公共セクターでのデザインの活用」は普及していないことが様々なエビデンスによって検証されてきた。その意味では、日本の現状もとりわけ世界から遅れをとっているわけではないことが検証されたともいえる。しかし他国に参考事例がないということは行政手法として日本がそのまま流用できる知見がないということであり、本研究の意義は高まったともいえそうだ。 しかし、現状のように、委託事業型に依存するやり方や他国からの資本援助に依存するやり方では、公共セクターであるにもかかわらず、都市開発や産業育成施策が、そのときの経済環境に大きく影響をうけてしまうという弱点があることも明確化した。 また今回、調査対象地域を選定した理由は、1)先進国1か所と新興国1か所を比較したかったという点、2)実効的に調査可能な人脈が確保できる点、を重視したことによるが、デンマーク国コペンハーゲン市周辺も候補として検討した。日程的な問題で2022年度には実施できなかったので、今後再び実施できる可能性を検討してみたい。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでの検証結果をもとにして、実際に日本国内の地方自治体などに「デザイン人材」を短期間派遣してみることで、どのような業務遂行や意識の変化があるのかを実証的に検証してみる。派遣先としては、東京都多摩市役所、石川県庁などを想定しており、具体的な計画策定に着手している。 この実証実験の結果をうけて、研究最終年度には総合的な分析を実施し、結果を国内と海外での学会発表、論文投稿などで公表していく予定である。本研究であきらかになりつつある数多くの事実は、民間企業における「デザイン経営」への示唆のみならず、国の施策としての知的財産の活用やデザイン人材の育成などにも幅広い示唆をもたらすと期待される。また海外事例もそれほど多くないという検証結果をうけて、国際的視点でみても重要な先行事例になる可能性がある。残された研究機関を通じて、学術・実務両面における貢献を明確化させていきたい。
|