研究課題/領域番号 |
21H00473
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
山部 能宜 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (40222377)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 維摩経変相 / 観経変相 / デジタル復原 / 仏教石窟の機能 / 禅定窟 / 僧坊窟 / 律文献 / 軟蘇の法 |
研究実績の概要 |
2021年度には、敦煌絵画に関する二点の成果を公刊した。一つは維摩経変相(Stein Painting 57)に関する成果である。本作品は劣化が著しいが、今回は高精度の可視光・赤外線写真にデジタル処理を施し、より明瞭な画像を再構成した上で細部の検討を行った。詳細に先行作例と比較検討するならば、一部明らかな写し崩れが見られ、画師達が絵画の細部の意味を十分理解していなかったことが窺える。もう一つは観経変相(MG. 17672)に対する研究であるが、本作例も劣化が著しいため明瞭な画像を再構成して検討したところ、「王舎城の悲劇」「観想」の双方にかなり大きな経典からの乖離が見られることが確認できた。 さらに、10月に華梵大学の学会で、禅観の実践と仏教石窟の関係に関するオンライン発表を行った。 2022年度には、まずOxford Handbook of Meditationへの寄稿で禅観の伝統の概観し、その中で、道元の実践法が初期仏教の念処の修行を受け継いでいることを指摘した。 次に、国際仏教学会大会においてパネル「仏教石窟寺院の用途と機能」を組織・実施した。本パネルにおいては、インドおよび中央アジアの諸地域の石窟寺院の専門家を招き、仏教石窟の機能面に着目して、考古学・文献学・美術史学といった領域を専門とするメンバー間の事前討議を経て得られた学際的な知見を発表した。 このパネルで私自身は、インドの経典および律文献にみられる禅堂(禅窟)での実践に関する記述に着目し、それらをインド石窟寺院の実地調査時に撮影した写真と比較検討して、その記述の多くが通常「僧坊窟」と見なされている石窟の構造と適合することを指摘した。これは、僧坊窟の中で禅定も修されていたか、あるいは僧坊窟と構造の類似する禅定窟が造営されていたかの何れかを強く示唆する。 その他、白隱の「軟蘇の法」に関する論攷を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の通り、新型コロナウィルス感染症の影響で2021年度に予定していた計画を年度内に終えることは出来なかったため一年繰越の手続を取ったが、今回の最大の課題であった国際仏教学会におけるパネルディスカッションは、繰越期間中に無事終えることができた。当該パネルは幸い関係分野の研究者の関心を引くことができ、某学術誌のオファーを受けて現在論文の発表準備が順調に進行している。従って、全体的に見れば概ね順調に進行しているとしてよいであろう。
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今後の研究の推進方策 |
諸般の社会情勢により、石窟寺院の本格的な現地調査はなお困難な状況が続いているが、博物館の調査等は既に可能となっているので、既収集資料の分析を進めるとともに可能な範囲で調査を行い、また関係分野の研究者との連携を深めて、仏教実践の諸相の解明を進めたいと考えている。今後の具体的な計画については、2022年度分の成果報告書を参照されたい。
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