| 研究課題/領域番号 |
23K20429
|
| 配分区分 | 基金 |
| 研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
片山 幹生 大阪公立大学, 大学院文学研究科, 研究員 (50318739)
|
| 研究分担者 |
本橋 哲也 東京経済大学, コミュニケーション学部, 教授 (20230047)
日比野 啓 成蹊大学, 文学部, 教授 (40302830)
須川 渡 福岡女学院大学, 人文学部, 准教授 (50709566)
小川 史 横浜創英大学, こども教育学部, 教授 (60442159)
|
| 研究期間 (年度) |
2024-04-01 – 2026-03-31
|
| キーワード | 地域市民演劇 / アマチュア演劇 / 共同体演劇 / 芸能 / 観光 |
| 研究実績の概要 |
当研究課題の最終年度の2024年度は、6名の研究メンバーが精力的に活動を展開し、全国各地の地域市民演劇について20件の現地調査と関連資料の収集を行った。地域アマチュア演劇を「新しい芸能」ととらえ考察を進める過程で、「観光と演劇」という新たな視座が得られたことが昨年度の当研究の重要な成果である。調査対象の約半数を占める地域振興と連携した事例において、観客は単に公演を鑑賞するだけでなく旅程や周辺観光を含む全体を「観光」体験として捉える傾向が見られた。これは、都市圏と比較して地方における演劇の自立性に関わる課題でありつつ、演劇が広義の観光という地域性および身体性と結びついた社会的営為と高い親和性を本質的に持っていることを示唆する。 研究メンバー総見を実施した第33回YOSAKOIソーラン祭りでは、地域団体、障害者・子どもと活動する団体、学生中心の若い団体など多様な参加団体と観客の一体感を高める工夫を確認し、全国から集客するこの祭りが商業主義とアマチュア精神を融合した現代的再生の事例として注目されることを改めて認識した。 さらに名古屋のカフェナゴヤ座と名古屋をどりNEO、山口県湯田温泉の女将劇場、高知県の土佐赤岡絵金祭りなどでも、地域市民演劇と観光の独自の結びつきを確認できた。名古屋の事例からは、古典題材の現代的解釈、「推し」文化を取り入れた商業演劇モデル、伝統舞踊の「観光化」といった多様な実践が見られ、「芸どころ」としての地域性と舞台芸術の関係性が顕著だった。 また沖縄県では「現代版組踊」と称される地域子ども演劇の諸相を引き続き検証した。 これらの調査を通じて、従来の「市民演劇」の枠組みでは捉えきれない「新しい芸能」の台頭を確認するとともに、本質的にローカルな活動である演劇と地域観光の相互作用について、今後さらに考察を発展させる必要性が明確になった。
|
| 現在までの達成度 |
現在までの達成度
2: おおむね順調に進展している
理由
2021(令和3)年度は9名のメンバーにより約30箇所、2022(令和4)年度は8名のメンバーで20箇所、2023年(令和5)年度は7名のメンバーで20箇所、そして2024年(令和6)年度は6名のメンバーで20箇所の演劇活動の取材を行った。この4年間で調査を行った対象は延べ90箇所となり、研究活動の根幹をなす当事者への聞き取り調査による現地取材については、メンバーの減少にもかかわらず、ほぼ予定通りの進捗状況となっている。 本研究の初期には「地域市民演劇」という既存の枠組みで調査を進めていたが、調査を重ねるうちに「新しい芸能」という視点が浮かび上がってきた。また、最終年度である2024年度には「演劇と観光」という新たな視座も得られ、研究の深化と発展が見られる。こうした成果をまとめた論集『「新しい芸能」の誕生─地域市民演劇の〈トポス〉の拡大と変容』(仮題)の刊行準備も順調に進んでいる。論集ではわれわれが出会った地域性と共同体、祭礼などと結びつく事例を「新しい藝能」としてとらえ、従来の地域市民演劇のあり方や訓練された身体による自己表現を目指す芸術的パフォーマンスとも異なるこれらの「藝能」のムーブメントについて各研究メンバーが報告と考察を行う予定である。 加えて、本研究で得られた知見をさらに発展させるべく、「演劇と観光」を主題とする次期研究の準備も並行して進めており、調査地の選定や研究体制の構築など具体的な計画も固まりつつある。これにより、本研究の成果が今後の演劇研究においても継続的に活かされることが期待できる。
|
| 今後の研究の推進方策 |
今年度は、「新しい芸能」という概念で捉えた地域市民演劇研究の集大成として論集『「新しい芸能」の誕生─地域市民演劇の〈トポス〉の拡大と変容』(仮題)の刊行準備に注力する。この論集では、8名の執筆者がそれぞれの専門分野から、従来のアマチュア演劇やプロフェッショナルな舞台芸術の枠組みでは捉えきれない集団的表現活動を「新しい芸能」として分析する。地域固有の歴史や伝統を基盤としながらも、ゆるやかで持続的な活動を行う共同体によって担われるこれらの実践について、個別事例の詳細な検討と理論的考察を展開する予定である。 今年度の秋に開催される日本演劇学会研究集会では、本研究の総括としてパネルを企画している。このパネルでは論集の内容に沿ったテーマ発表を行い、「新しい芸能」についての研究成果を研究者コミュニティに広く共有することで、議論のさらなる活性化を目指す。 また、本研究の重要な成果として浮かび上がった「演劇と観光」という視座をさらに発展させるべく、次期研究プロジェクトの準備も並行して進めている。地域の観光産業と上演芸術が〈観光の場〉においてどのように相互作用し、新たな文化的価値や社会的影響を生み出すかという問いは、「新しい芸能」研究から派生した重要テーマである。次期研究では研究メンバーを拡充し、より広範な地域調査と国際比較研究を視野に入れている。 本研究で確認された、個として自立した市民による「アマチュア演劇的なもの」から、共同体の一員として自己を発見/更新する場としての「新しい芸能」への移行という文化変容の分析は、現代社会における芸術実践と地域コミュニティの関係性を問い直す重要な視点を提供するものであり、最終年度の成果としてこの点を特に強調していきたい。
|
| 次年度使用額が生じた理由 |
当初、本研究の集大成として2024年度内に論集刊行を予定し、研究費の一部をその出版経費に充当する計画であった。しかしながら、出版社側の編集スケジュールの都合および印刷工程の遅延により、年度内の刊行が困難となった。出版社との協議の結果、刊行時期を2025年秋に延期せざるを得なくなったため、当該経費に相当する50万円を次年度に繰り越すこととした。次年度においては、本研究の成果を社会に広く還元するため、この繰越金を論集の編集・印刷・出版に関わる諸経費として有効に活用する。
|